コザークするウクライナ

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タイトル別名
  • Cossacking Ukraine
  • コザーク スル ウクライナ

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抄録

長年受け継がれた口碑には、ある形象が完成された「究極因エンテレヒー」が現れる。その探究は、口碑の担い手の世界を今日に明かす。本論では17世紀に生まれたコザーク歌謡『嗚呼丘では麦刈り人らの麦を刈る』の分析を通じて、ウクライナ人が双極を成す「究極因」を持つ様を察かにする。 近代の幕開け、ウクライナ人は目まぐるしく発展する《ヨーロッパ》世界の中心と、その周縁たる《野性の野ディーケ・ポーレ》とのあいだを往き来した。二つの行き先を抱えた彼らは、おのずから《秩序》と《渾沌》、両極に心惹かれ挑戦した。総じてそれは、近代の圧力の下、行き止まりの状況に《出口》を見出そうとする葛藤であった。《コザークした》ウクライナ人は新秩序建設に《出口》を求め、ついには国家をも樹立させたのである。 だが、人々が歌い継いだのは祖たちの国家建設の苦労ではなく、もう一方の性質、すなわち秩序に逆らう逸脱行為であった。『嗚呼丘では……』は、共同体に留まる「麦刈る人々」が、《旅》に出る《放蕩息子》たるコザークを謡う。コザークは近代の新秩序のなかで孤独化する人々の感じる欠損性を引き受けて《旅》に出るのであり、コザークの《英雄》たる所以はここにあるのである。

収録刊行物

  • スラヴ文化研究

    スラヴ文化研究 21 1-23, 2024-03-31

    東京外国語大学ロシア東欧課程ロシア語研究室

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