癌への魔法の弾丸を求めて―見果てぬ夢を追って

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タイトル別名
  • Seeking the magic bullet for cancer: in pursuit of an unfinished dream
  • ガン エ ノ マホウ ノ ダンガン オ モトメテ : ミハテヌ ユメ オ オッテ

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説明

魔法の弾丸とは、1900年にエールリヒが提唱した概念であり、特異的に微生物を標的とする方法です。エールリヒは病気を引き起こす微生物を殺すことができる魔法の弾丸が存在すると信じ、梅毒の治療薬であるサルバルサンを開発しました。私は、1983 年に卒業し、放射線治療医となり、現在まで40年以上、放射線治療医として働いています。私が卒業した当時の放射線治療は、治療技術が低く、治せる癌は少なく、副作用も頻回に起き、重い副作用もおこりました。その当時の私は、放射線治療を受けても癌が治らず亡くなっていく患者を担当する度、放射線治療が魔法の弾丸のように働いて、癌を直すことができるようにならないかと夢見たものでした。この40 年間で、放射線治療技術は著明に進歩しました。画像誘導放射線治療の開発により、癌組織に、1~3ミリの誤差で、正確にX線を照射することが可能になり、また、強度変調放射線治療の導入により、X線を集中して癌に照射できるようになり、癌の治癒率の向上や、副作用の著明な減少が実現しています。限局した癌では、放射線治療は、まさに魔法の弾丸のように、癌を治すことができるになってきています。しかし、進行癌では、放射線治療でX線を照射した部位が治癒しても、その後、高率に転移が発生します。放射線治療は局所療法で、遠隔転移の発生を予防することには無力と考えられてきました。進行癌の放射線治療には、放射線治療した部位以外にも効果がある、X線以外の魔法の弾丸が必要です。以前より、放射線治療にはアブスコパル効果の存在が知られていました。アブスコパル効果とは、癌組織に放射線治療を行うと、放射線が照射されていない遠方にある癌も縮小することです。放射線照射で活性化された細胞傷害性Tリンパ細胞が放射線照射外にある癌細胞を探し出して殺してしまうためと考えられています。残念ながら、このアブスコパル効果は稀にしか起こりません。ところが、2010年代後半のチェックポイント阻害剤の出現が、この状況を一変しました。 放射線治療とチェックポイント阻害剤の併用で、アブスコパル効果を増大させることが可能になりました。放射線治療とチェックポイント阻害剤は、肺癌の化学放射線治療で応用され、進行肺癌の治療成績の改善に大きく寄与しています。このように、放射線治療で活性化されたTリンパ球が、魔法の弾丸になり、照射していない癌にも、放射線治療は効果を発揮できるようになって来たのです。これらの放射線治療の進歩について、述べたいと思います。

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