重症心身障害病棟のコロナ禍における面会の実態と今後の展望

  • 鈴木 由美
    国立病院機構 下志津病院 感染症内科・小児科 医師

書誌事項

タイトル別名
  • (国立重症心身協議会参加施設調査より)

説明

Ⅰ.はじめに 新型コロナウイルス感染症(corona virus disease 2019:以下、COVID-19)の国内における流行が始まって1年半以上が経過した。全国の多くの重症心身障害病棟(以下、重症児(者)(病棟))においては、長期にわたる「コロナ禍」を何とか無事に乗り切ろうと、安全な面会や療育の実施について今なお模索を続けている。この間、5回の流行の波があったことに加え、ワクチン接種や変異株の出現など、感染リスクに関わる状況はめまぐるしく変わっている。このような中、国内全体の各重症児(者)病棟でどのような対応がされてきているのか、全体的に具体的に知る機会は少ない。 このため、この度、全国の国立重症心身協議会参加施設におけるCOVID-19に関連した面会の対応等の実態を明らかにするため、アンケート調査を行った。本稿ではこの調査内容に、リスク評価やリスクに応じた対策の立案の考え方、また今後の方向性などについて考察を加え、報告する。 Ⅱ.対象・方法 全国の重症児(者)病棟をもつ国立病院機構病院および国立センター病院(全76施設)を対象に、2021年10月から11月にかけて、既存の国立病院機構の病院間ネットワークを活用して、電子メールおよび国立病院機構のインターネットセキュリティ内のMS Teams機能に含まれるFormsを活用して、アンケート調査を行った。調査対象期間は2020年3月から2021年9月とし、回答職種は各施設の判断で任意とした。調査協力依頼のメールに、調査結果については施設名が特定できない形で重症心身障害学会において発表することを明示し、回答をもって本調査への同意とみなした。なお今回調査した内容は、施設としての対応状況の把握に限られるため、患者や職員個人の利益や不利益が生じるような内容は含まれない。 Ⅲ.結果 1.回答回収率 61施設(回収率80%)から回答が得られた。 2.回答施設の所在都道府県の緊急事態宣言発令期間と面会制限/中止期間 1)緊急事態宣言ののべ発令月数(2020年春の全国一斉緊急事態宣言は除く) 全国一斉の緊急事態宣言解除以降で同宣言が発令されていた期間は、34施設(56%)においては発令なし、14施設(23%)においては3か月未満、その残りの13施設(21%)において4か月以上の発令期間であった。 2)直接対面面会の制限/中止状況 上記、緊急事態宣言発令期間ごとの3群において、従来通りの制限のない直接対面面会を実施していた平均期間はそれぞれ0、0.9、1.1か月、何らかの制限がある直接対面面会については5.6、4.5、4.0か月、直接対面面会中止期間は13.3、13.6、13.5か月、最長連続直接対面面会中止期間は10.2、11.1、11.2か月であり、大きな傾向の差は見られなかった。この一方で、直接対面面会を中止していた期間ごとに施設数を見ていくと、全体および発令なしと3か月未満の群のそれぞれにおいて19か月、つまり調査対象期間を通じて直接対面面会を中止していた施設が最多となり、全体の23%にあたる14施設がこれに該当していた (図1) 。 3.長期入院患者の面会の実際の対応とその影響 1)対面面会の代わりの工夫 手紙や写真の郵送が59施設(97%)、院内とつなぐオンライン(リモート)面会が48施設(79%)、家庭とつなぐオンライン(リモート)面会が38施設(62%)、ガラス越し面会が32施設(52%)であった。 2)オンライン(リモート)面会 家庭とも院内とも接続が29施設(48%)、家庭とのみ接続が8施設(13%)、院内とのみ接続が18施設(30%)で、90%が何らかの形でオンライン(リモート)面会を実施していた。この対応に当たっている職種は看護師が47施設(77%)、児童指導員が46施設(75%)、保育士が42施設(69%)と多く、日常的に患者や家族と接する職種が多い傾向が見られた。オンライン(リモート)面会については「好評」との回答が最も多かったが、マンパワーやハード、通信環境といった施設側の問題、またハードや通信環境の他に高齢化による各種操作が困難といった家族側の問題も挙げられていた。意外と希望者が少なく、一部の限られたご家庭がくり返し利用されているといった回答も複数みられた。 3)直接対面面会における各種制限状況(50施設からの回答) 15分以内が36施設(72%)、2名以内が42施設(84%)、事前電話予約制が40施設(80%)、病室外の面会場所が34施設(68%)、直接の接触を制限または禁止が32施設(64%)であった。 4)患者や家族への影響 患者に大きな変化ありが3施設(5%)、変化ありが20施設(33%)、少しの変化ありが26施設(43%)と、80%(49/61施設)が「患者への変化がある」と回答した。ただしこれには療育活動も含めた各種日常生活の変化の影響も含まれる。家族の受け入れについては、大変満足との回答はなく、現況下では仕方がないとおおむね受け入れが49施設(80%)だった。患者さんや家族の様子で印象に残ったこととして、感染症全般が減った等「かえってよくなった面もある」との回答が2施設からあったが、「患者にストレス」との回答が24施設、「患者の家族にストレス」が12施設、「家族の心理的な距離が離れた」が7施設、「対面できずご家族が亡くなった」との回答も6施設からあり、マイナスイメージのコメントがプラスイメージのコメントの数を大きく上回った。 4.重症児(者)病棟の面会制限、中止、解除の決定方法 1)面会制限、中止、解除について検討する場 院内感染対策委員会が21施設(34%)、新型コロナ対策会議が17施設(28%)で、62%が「病院全体の会議の場」で検討されていた。重症児(者)病棟運営会議が10施設(16%)だった。職種としては、院内感染対策担当者が53施設(87%)、病院幹部職員が51施設(84%)、重症児(者)病棟担当医師が50施設(82%)で参画しており、いずれも8割を超えていた。療育指導室職員は39施設(64%)、重症児(者)病棟看護師長は37施設(61%)といずれも6割を超えていたが、前述の3職種より少ない傾向がみられた。 2)直接対面面会中止、解除/緩和の基準 事前に中止の基準を定めているのが32施設(52%)、解除/緩和は27施設(44%)と、全体の約半数が基準を定めていた。中止基準のある32施設中、院内独自の対応レベルが13施設(41%)、緊急事態宣言や県の警戒フェーズ等行政による基準が12施設(38%)でほぼ同数だった。市内での発生があった場合に中止する施設が2施設(6%)あった。解除/緩和基準のある27施設中、院内独自の対応レベルが11施設(41%)、行政による基準が11施設(41%)で同数だった。 5.今後のコロナ禍における面会に関する展望 1)コロナ禍における面会で目指したいこと 制限のある対面面会が28施設(46%)、オンライン(リモート)面会と制限のある対面面会が9施設(15%)、オンライン(リモート)面会の充実が7施設(11%)、感染状況に応じた対応が5施設(8%)と、8割超から「制限なしの対面面会」ではない形式の方向性の回答があった。 2)罹患歴やワクチン歴による面会の対応 罹患歴やワクチン歴による面会の対応の変更は、面会者のみが8施設(13%)、患者についてのみが1施設(2%)、両方が14施設(23%)、両方変更しないが38施設(62%)であった。 Ⅳ.考察 重症児(者)病棟は病院の中の病棟ではあるものの、社会福祉施設と類似した側面もある。このため同施設向けに厚生労働省から発出される各種通知は、重症児(者)病棟における面会等の方向性を検討する際においても参考となる。全国一律に緊急事態宣言が発出されていた2020年4月7日に「面会については、感染経路の遮断という観点から、緊急やむを得ない場合を除き、制限すること。」といった通知があり、全国的にほとんどの重症児(者)病棟が面会を中止した。その後同年10月15日の通知には「面会については(中略)地域における発生状況を踏まえ面会を実施する場合は以下の留意事項もふまえ感染防止対策を行った上で実施すべきであること」となり、各種留意事項が具体的に示された。今回の調査では地域の流行状況に応じて緊急事態宣言の発出期間も大きく異なったが、これによる面会の中止や制限に関する差は大きくなく、むしろ緊急事態宣言の発出が0〜3か月未満と比較的流行が大きくなかった地域で「19か月間連続対面面会中止」の施設が最多であり、「地域における発生状況を踏まえた面会の実施」になかなか踏み切れなかった現状が窺われた。 (以降はPDFを参照ください)

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390584729933374720
  • DOI
    10.24635/jsmid.47.1_19
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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