肥満でなぜインスリン抵抗性をきたすのか?

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  • How does obesity induce insulin resistance?

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脂肪組織に在住するマクロファージには脂肪細胞の機能を調節し全身の代謝の制御作用があることが注目されている。マクロファージはその役割の違いからM1型マクロファージとM2型マクロファージに分類される。肥満で増加するM1マクロファージからは炎症性サイトカインが分泌されインスリン抵抗性を誘導する。一方,非肥満で優位に存在するM2マクロファージから分泌されるIL-10などのサイトカインはその抗炎症作用によりインスリン感受性の維持に関与すると考えられてきた。肥満にともないマクロファージが抗炎症型のM2から炎症型のM1への変換が起こるという「Phenotypic switch theory」が長い間,主流であった。2017年,私どもはM2マクロファージを任意のタイミングで除去可能な遺伝子改変マウスを用いて,M2マクロファージの除去によりインスリン抵抗性と耐糖能が改善することを見出した。同時に,組織学な解析では小型脂肪細胞の増加と前駆脂肪細胞の増殖が認められた。その結果,M2マクロファージがTGFβを介して,前駆脂肪細胞との間でニッチを形成し,増殖と脂肪細胞への分化を抑制し全身の肥満度とインスリン感受性を調節しているとの結論にいたった。この報告により,上述の「Phenotypic switch theory」は見直されることとなった。さらに私どもは,骨格筋においても,M2マクロファージの除去が,骨格筋内の前駆脂肪細胞様の細胞Fibro-adipogenic progenitor(FAP)を活性化することにより骨格筋障害からの回復を促進することを明らかにした。この結果も,「M2マクロファージが損傷の後期に増加し,修復促進に働く」という定説を覆す結果であった。これらの実験結果は,M2MΦを除去しTGFβシグナルを低下させる治療が,肥満によるインスリン抵抗性とサルコペニア予防という超高齢社会における2つの健康障害を同時に解決できる画期的な治療法になる可能性を示す。

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