生産価格と価値理論の有効性
書誌事項
- タイトル別名
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- Prices of Production and the Validity of Value Theory
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説明
マルクスは、各生産部門で剰余価値率は等しく資本構成の相違する場合、商品が価値どおりの価格で販売されるとすれば、生産部門間で利潤率は相違するとした上で、商品が価値から乖離した生産価格で販売されることによって各部門で均等な平均利潤率が形成されると説明する。そして生産価格が成立すれば、各部門の商品価値と生産価格および剰余価値と平均利潤は相違するが、社会総体としては 総価値=総生産価格、総剰余価値=総平均利潤となり、この総計一致の2命題を価値法則支配の根拠としている。これに対してマルクスの生産価格は費用価格を価値のままで生産価格化しておらず不完全であるとの指摘がなされ、費用価格を生産価格化した場合の総計一致の2命題の両立を巡って、いわゆる転形問題が提起された。本稿は、価値表式をもとに価格が価値から乖離する価格表式を作成し、その価格表式のうちで各部門に均等な利潤率をもたらす生産価格表式を特定して価値から生産価格への転化の過程を考察する。価値表式から転化した生産価格表式において平均利潤率は確定するが、その平均利潤率は生産された商品の価値量関係に依存していることが明らかとなるので、「価値からの展開がなければ平均利潤率は、それゆえ生産価格も無意味で没概念的な表象にとどまる」というマルクスの主張を肯定することができる。次に投入係数と実質賃金率を用いた生産価格方程式においても生産価格比と平均利潤率は決定可能となるから価値論は不要であるとの主張に対して、価値理論の有効性を検討した。価値概念を使用することで、生産価格での各財の交換取引は不等価交換であり、生産価格の成立は 搾取の存在を前提としていることが判明する。さらに価値論は、各生産部門で利潤率が正となるには、不等価交換の深化するにつれて剰余価値率は正値で、しかもその最小値は上昇してゆかなければならないことを明らかにする。価値表式とそれを転化させた生産価格表式の比較で捉えた総価値=総生産価格、総剰余価値=総平均利潤の総計一致の2命題は一般に両立不能であることが転形論争において確認された。しかし総計一致の2命題を、生産価格表式と生産価格の各構成部分に相当する商品生産物に対象化されている価値量を表示した生産価格対応価値表式との比較で捉えれば、第1命題(A)は 総生産価格=総生産価格に対応する価値であり、第2命題(B)は 総平均利潤=総平均利潤部分に対応する価値と定義され、このように定義された総計一致の2命題(A)(B)は、価値に比例した価格である価値価格を除けば、生産価格の成立段階でのみ両立するとの結論を得た。2命題(A)(B)の両立を価値法則支配の根拠とすれば、生産価格が価値法則の貫徹形態となるのである。
収録刊行物
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- 経済貿易研究 : 研究所年報
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経済貿易研究 : 研究所年報 51 153-183, 2025-03-25
神奈川大学経済貿易研究所
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390585407760807808
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- NII書誌ID
- AN00071389
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- HANDLE
- 10487/0002001351
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- ISSN
- 03865193
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- departmental bulletin paper
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可