ジルコンという鉱物から見た日本列島形成の歴史

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  • 大藤 茂
    富山大学都市デザイン学部地球システム科学科

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タイトル別名
  • Detrital zircons reveal the evolution of the Japanese Islands

抄録

<p>はじめに 日本の中・古生界は,古くから層位・古生物学的に研究されてきたにも関わらず,堆積盆と大陸との位置関係(後背地問題)については諸説ある.近年,後背地問題の解決に有効な手法となっているのが,砕屑性ジルコン年代測定である.砕屑性ジルコンとは,砂岩中に砂粒として含まれるジルコンで,後背地の火成岩体中に晶出した結晶が,侵食・運搬されて砂岩中の砕屑粒子となったものである.ジルコンは,晶出時に少量の U を含み Pb を含まないため,U の放射壊変を利用した U–Pb 年代測定が可能である.砂岩試料から砕屑性ジルコンを多数分離して年代分布を見ると,後背地の火成岩体の年代と量比を推定できる.また,今世紀になってから,レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICPMS)により,短時間で多く(~300 粒/日)のジルコン年代を求めることが可能となった(例えば 椛島ほか,2003:地学雑誌,112,1–).本講演では,砕屑性ジルコン年代分布に基づく ①南部北上帯シルル~下部白亜系と,②西南日本の下部白亜系手取層群(内帯)及び物部川層群(外帯)との後背地解析結果を紹介し,テクトニクスに関する考察を加える.</p><p>南部北上帯の研究 ①試料:東北日本の南部北上帯では,浅海成シルル~下部白亜系が連続的な層序をなす(例えば Kawamura et al., 1990: Pre-Cretaceous terranes of Japan, Nippon Insatsu Shuppan Co., Ltd., 249–).これは,日本を含む東アジアを構成する地質体の中古生代の地史・テクトニクスを考える上で重要な,3 億 5,000 万年分の標準層序である.南部北上帯全体のシルル~下部白亜系から砂岩 16 試料を採取し,砕屑性ジルコン年代分布を求めた.②結果:シルル~石炭系はいずれも 3000 Ma に至る様々な年代のジルコンを含み,%Pc(先カンブリア時代ジルコンの個数%)は 47–19 と若いほど減少する.特に,1500–500 Ma のジルコンが特徴的である.ペルム~下部ジュラ系は,いずれもジルコン年代が 263–195 Ma に集中し,%Pc≒ 0 の単峰型年代分布となる.中部ジュラ ~下部白亜系は,170–125 Ma と 2500–1600 Ma 付近に集中する二峰型年代分布を示す.%Pc は 5–40 と幅がある.</p><p>西南日本内外帯の下部白亜系の研究 ①試料:手取層群は,主に北陸地方の西南日本内帯に分布する中部ジュラ~下部白亜系である.本層群の下部白亜系は下位より,福井県石徹白地域では石徹白・赤岩亜層群(前田,1961:千葉大文埋紀要,3,369–)と,富山県有峰地域では長棟川・跡津川層(河合・野沢,1959:1:50,000 地質図幅「東茂住」説明書,地質調査所)とそれぞれ呼ばれる.いずれも陸成層を主体とし,石徹白地域では汽水~浅海成層を挟在する.福井県石徹白川流域の石徹白亜層群山原層・伊月層及び赤岩亜層群後野層と,富山県有峰地域の長棟川層庵谷峠部層・猪谷部層及び跡津川層南俣谷部層・和佐府部層との砂岩試料を採取し,砕屑性ジルコン年代分布を求めた.一方,物部川層群は,高知県物部川中流域を模式地とする西南日本外帯北部秩父帯の下部白亜系浅海成層で,下位より領石・物部・柚ノ木・日比原層に区分される(田中ほか,1984:高知大学術研報 自然,32,215–).模式地の物部川層群 4 層 5 層準の砂岩試料を採取した.②結果:福井県の手取層群は,3 試料とも古原生代ジルコンの割合が 75% 以上となった.また,富山県の手取層群は,4 試料とも %Pc が 6 以下で,古生代ジルコンを 7–40% 含んだ.一方物部川層群は,領石層を除いて,韓国の火成活動静穏期(158–138 Ma; Lee et al., 2010: Island Arc, 19, 647–)を含む 147–102 Ma のジルコンを有した.</p><p>考察 ①南部北上帯:シルル~デボン系の%Pc(47–35)は,その堆積場が先カンブリア時代の基盤岩類をもつ大陸縁であったことを示唆する.いずれの試料も,小ピーク(粒子数 <5)が多数見られる年代分布を示す.これは,中央アジア造山帯,モンゴルの下部古生界の砕屑性ジルコン分布に 類似する ( Fujimoto et al., 2012: Resource Geol., 62, 408–).また,中期古生代にゴンドワナ北東部に位置した,オーストラリア南東部の火成岩の年代分布と共通性が高い.従って,南部北上帯のシルル~デボン系は,ゴンドワナ北東縁の陸弧-海溝系で堆積したと見られる.これは,床板サンゴ等の古生物地理とも調和的である.次に,ペルム~上部ジュラ系のピーク形態は,単峰型となった.この砕屑性ジルコン年代分布は,古原生代ジルコンを 80 %も含む韓国のペルム~三畳系砂岩(Lee et al., 201 2: Jour. Geol. Soc. Korea, 48, 93–)のそれと対照的である.どの試料も火山岩片を相当量含む砂岩であることから,先カンブリア時代の基盤岩類をもつ大陸から離れた島弧-海溝系で堆積したと推測される.南部北上帯の石炭系には,リフティングを示唆するバイモーダル火山活動が知られている(Kawamura et al., 1990)ため,この時期に南部北上古陸(Ehiro and Kanisawa, 1999)がゴンドワナ北東縁から分離したと考えられる.中部ジュラ~下部白亜系のピーク形態は,170–125 Ma と2500–1600 Ma に年代値が集中する多峰型の年代分布を示す.2500–1700 Ma は,北中国地塊癒合前後の火成作用の年代であり,170–125 Ma は韓国の火成活動静穏期(158–110 Ma; Sagong et al., 2005)と年代が重なる.以上より,大陸から離れた島弧であった南部北上古陸は,中期ジュラ紀に南・北両中国地塊からジルコンが供給される大陸縁に接合したと見られる.南部北上帯中古生層の堆積場は,コンドワナ北東縁→大陸から離れた島弧縁辺→南・北中国地塊縁辺と変化したらしい.②西南日本内外帯の下部白亜系:日本海形成前(25 Ma 以前)の北陸地方は,東朝鮮湾付近に復元される(山北・大藤,2000:地質学論集,56,23–).朝鮮半島は 2000–1800 Ma に形成された北中国地塊の延長で,古原生代の火成岩に富む(Zhao et al., 2005: Precam. Res., 136, 177–).一方,その北東方の吉林・黒竜江省は中央アジア造山帯に位置し,古原生代の岩石に乏しくペルム~中期ジュラ紀の火成岩に富む.以上より,古原生代のジルコンに富む(≥ 75%)福井県の手取層群砂岩は朝鮮半島から,富山県の手取層群砂岩はその北方の中国東北部・吉林~黒竜江省から,それぞれ河川により供給されたと見られる(付図).一方,領石層を除く物部川層群は147–102 Ma の火成岩を後背地にもつと推定される.アジア東縁でこの時期の火成岩が全て分布するのは南中国の浙江・広東省(Cui et al., 2013: J. Asian Earth Sci., 62, 237–) で,物部川層群の後背地はここに求めざるを得ない.以上の結論は,東アジアの前期白亜紀古植物地理(例えば 大花・木村,1995:地質雑,101,54–)と調和的であり,西南日本外帯が内帯とアジア大陸東縁に対して相対的に北上したことを示す.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845712969353600
  • NII論文ID
    130007410372
  • DOI
    10.14915/gsj.40.0_6
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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