飛騨山脈の現存氷河の特性
書誌事項
- タイトル別名
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- The characteristics of active glaciers in the northern Japanese Alps
説明
1. はじめに<br>飛騨山脈では,2012年4月に立山剱山域の小窓・三ノ窓・御前沢雪渓が氷河であると判明し(福井・飯田 2012),2018年1月に立山剱山域の池ノ谷・内蔵助雪渓,鹿島槍ヶ岳カクネ里雪渓が新たに氷河であると判明した(福井ほか 印刷中).現時点で,飛騨山脈で氷河と判明している多年性雪渓は6つになる.本発表では,飛騨山脈の氷河分布地としての気候条件,氷河の流動機構,質量収支,近年の面積変化について検討した.<br><br>2. 氷河分布地の気候条件<br>図1は世界各地の70の氷河の平衡線付近における夏期気温および年降水量を散布図としてプロットしたものである(Ohmura et al. 1992).図1のデータ点の分布領域より上は,夏の融解に対して十分な涵養があるため気候条件的に氷河が分布できる場所,逆にデータ点の分布領域より下は,夏の融解に対して涵養量が足りず氷河が分布できない場所である.<br>図1に立山の夏期気温と年降水量をプロットしてみると,データ点の分布領域より上側にあるため,気候条件的に,現在の立山では,氷河が存在可能であるといえる.また,立山は氷河の分布地として世界的にも極めて夏期気温が高く,年降水量が多い場所に位置していることが分かる.<br><br>3. 流動機構<br>カクネ里雪渓と内蔵助雪渓の流動速度を,塑性変形による氷河流動の一般則であるグレンの流動則(Glen 1952)から検証した.カクネ里雪渓中流部のモデル計算による流動速度は2.4 m/年で,現地観測による流動速度2.3~2.6 m/年と一致した.また,内蔵助雪渓中流部のモデル計算による流動速度は3.5 cm/年で,現地観測による流動速度2~3 cm/年とほぼ一致した.したがって,カクネ里・内蔵助両雪渓の流動速度は,塑性変形による氷河の流動モデル計算で妥当な値が得られるといえる.<br><br>4. 質量収支<br>御前沢雪渓の2011/2012年の質量収支は,本来ならば質量収支の値が大きく負になるはずの氷河末端付近で,質量収支がほぼ0になった.このことから,御前沢雪渓の涵養には,雪崩による側面からの雪の供給が大きく寄与しているといえる.<br>新井(1975)に従い氷河下端を平衡線高度と仮定すると,平衡線高度は,御前沢雪渓が2,500 m,内蔵助雪渓が2,700 m,カクネ里雪渓が1,795 m,池ノ谷雪渓が1,800 mとなる.同じ飛騨山脈北部にありながら,内蔵助雪渓とカクネ里雪渓では,平衡線高度に900 m以上も差がある.したがって,この地域の氷河は,平衡線高度が大きくばらつくことが特徴と言える.<br><br>5. 近年の面積変化<br>カクネ里雪渓の氷体の面積は,1955年9月25日の102,200 m2から2016年9月27日の89,900 m2へ61年間で12%ほど減少した.また,池ノ谷雪渓の氷体の面積は1955年9月25日の69,900 m2から2016年10月7日の58,780 m2へ61年間で16%ほど減少した.両雪渓とも氷体が縮小したのは,氷体がうすい末端部や上端部であり,主要部はほとんど変化していなかった.<br>地球温暖化が叫ばれる中,20世紀後半から世界の多くの氷河は縮小傾向にある(大村 2010).過去60年間で面積が1/2~1/3にまで縮小したり,消滅しかかったりしている氷河もある.これに対して,カクネ里・池ノ谷両雪渓は,61年前と現在で氷体の主要部の面積や形がほとんど変わっていない.カクネ里・池ノ谷両雪渓は,世界的に見れば小さな氷河ではあるが,今後も長期間にわたって生き残っていくかも知れない.<br><br>文献<br>新井 1975. 『日本の氷期の諸問題』 174-184.古今書院.大村 2010. 地学雑誌 119:466-481.福井・飯田 2012 雪氷 74:213-222.福井ほか 印刷中.地理評.Glen 1952. JG 2: 111-114. Ohmura et al. 1992. JG 38: 397-411.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2018s (0), 000075-, 2018
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390845712970114816
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- NII論文ID
- 130007411876
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可