深圳華僑城における都市空間の生産と文化の商品化

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タイトル別名
  • Culture Commodification and the Production of Urban Space in Shenzhen, China

抄録

中国では1992年以降、国家旅遊局による国内観光事業の促進と共に、全国各地で遺産文化や民族文化などを対象とした文化の商品化が顕著に見られるようになった。文化の商品化の産物として生産されるのはテーマパークや民族園などの観光空間だけではない。同時に、文化に対する考え方や物へのまなざしも生産され、また都市的ライフスタイルとして消費されるのである。本発表では、テーマパーク観光で知られる深圳華僑城エリアを事例に、1985年から2017年現在まで、観光空間・都市空間の開発において、何が文化として、どのように商品化されてきたかについて検討し、生産される都市空間のスペクタクルの背後にどのような政治的社会的背景と意味があるかに迫りたい。<br> 中国の観光事業と文化の商品化を牽引しているのは、観光開発と不動産開発を中心事業とする大手国有企業(国務院国資委管理下の中央企業)の華僑城グループ(Overseas Chinese Town Group, 以下OCTと略す)である。OCTは、1985年に設立されて以来、深圳中心部にある華僑城エリアにおいて中国初のテーマパークを建設し、「文化観光+不動産開発」という開発モデルを成功させ、上海や西安や成都など全国各地に開発事業を展開してきた。<br> 早期に開発されたテーマパークの錦繍中華微縮景観(1989年9月開園)と中国民俗文化村(1991年10月開園)では、中国の歴史と文化が商品化されている。具体的には、錦繍中華では(黒竜江省と吉林省を除いた)31の一級行政区から80点ほどの遺跡建造物や自然景観のレプリカが展示されている。レプリカの空間的配置は現在の中国の地理に従わせたもので、国家領土の可視的ランドスケープを作り出している。民俗文化村では、選ばれた24の民族の実物大のパヴィリオンで、文字・宗教・手工芸品・民族衣装・舞踊など「伝統的」とされる民族文化が展示されている。1994年に開園した世界之窓は、改革開放の窓口という深圳の位置づけを物語っている。<br> 1998年の歓楽谷(ディズニーランドに似たアトラクション中心の遊園地)の開園によって、国家や民族や世界という大きな物語に特徴付けられる文化の商品化から、娯楽性や余暇消費などといったより日常的で物質的な消費文化が売り物にされるようになった。2000年以降、錦繍中華・民俗文化村(2003年より合併)では中国の伝統祝祭イベント、世界之窓では外国の祝祭イベントが定期的に開催されるようになった。深圳を国内随一の祝祭都市と変貌させた。さらに、2000年代半ばから、湿地・海浜などエコツーリズム開発(自然の保護や復原)や、無形文化財の保護と開発など、都市開発における文化の商品化が多様化しながら広まっている。<br> 2006年に開業した華僑城文化創意園(LOFT)を皮切りに、中国各地において華僑城をモデルに文化創意園区や文化創意空間が作られるようになった。開発事業を直接OCTに任せるケースも多い。甘坑客家小鎮(深圳市龍岡区)はOCTが2016年末に深圳市政府から受け継がれた開発事業である。ここでは、2011年に市の無形文化財に指定された「客家涼帽」という客家文化を切り売りする商業空間が現在進行形で作られている。開発途中であるにもかかわらず、すでに「8個国家級文旅特色小鎮」(2017年7月中共中央文化部)のトップに選定され、表彰された。<br> 1988年12月より中央テレビCCTVによる華僑城開発に関するドキュメンタリーが放送され始めた。それ以来、CCTVや地方テレビによる華僑城の開発事業やOCTの経営発展などに関する特集報道が頻繁に行われている。メディアによる報道の開始は華僑城のスペクタクル化の始まりを意味する。華僑城は加工業開発の傍にテーマパーク開発を始め、「国家」と「民族」を観光資源として領土(国家)と民族(国民)の可視化する「戦術」で成功した。錦繍中華・民俗村という国家と民族のスペクタクル空間が華僑城のいかなる観光+不動産開発も正当化してくれる。商品と消費のスペクタクルは政治的経済的イデオロギーの消費によって支えられている。スペクタクル空間の生産において、中央政府や中央企業(もしくは)による表象が独占的な位地を占めている。都市住民、しいて国民が受動的な消費生活を送る従順な「観客」として育てられている。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845712970127872
  • NII論文ID
    130007412043
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000262
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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