近年の松山都市圏における地元開発業者による住宅地開発の動向

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タイトル別名
  • Recent Residential Area Development by Local Develpoers in Matsuyama Urban Region

抄録

高度経済成長期以降,都市部へと流入する人口の受け皿として,郊外における大規模住宅地開発が盛んに行われた.しかし1990年以降は,大都市圏の都心部や周辺部での人口増加が見られる一方で,郊外住宅地では高齢化や空き家の増加が問題となるようになった.特に地方都市では,人口減少・少子高齢化が進む中,財政面で持続可能な都市を形成するために,「コンパクトシティ」政策に取り組む自治体も出てきている.しかしながら,現在も地方都市において住宅地開発は行われているのが現状である.<br> これまでの民間企業による住宅地開発では,地価の上昇・大量の住宅需要という背景の中で,いかに経費を圧縮して最大利益を確保するかという行動原理が存在した.しかし,地理学では地価下落・需要減少という近年の社会環境の中における民間企業の行動原理は明らかになっていない.また,住宅地開発を行った主体に関する研究の多くは,大都市圏において大規模開発を行った大手デベロッパーを対象にしたものが多く,小規模な開発を行った業者に関しては明らかになっていない.<br>そこで本研究では,既に人口減少期に突入した地方都市を対象に,住宅地開発を行った業者に着目して,近年の住宅地開発における行動原理を明らかにする.<br> 松山都市圏では1950年代後半から大規模開発が行われ,1970~1990年代は民間企業による大規模開発が盛んに行われていた.しかし,1973年以降の民間企業による総開発面積のうち70.8%が1ha未満の開発であり,松山都市圏の住宅地は主に小規模な開発によって形成されてきたと言える.また,1ha未満の小規模な開発のおよそ98%が地元企業によって開発されており,小規模な開発は非常にローカルな市場が形成されていた.しかし,1990年代後半から大規模開発の件数が減少し,2000年代以降に入ると大規模開発がほとんど行われなくなり,小規模な開発や中心市街地における分譲マンション開発が主流となった.<br> 松山都市圏で小規模な住宅地開発を行った業者は,大手ハウスメーカーと,地元木材業者・不動産業者・住宅建築業者・建設業者だった.大手ハウスメーカーは,1960年代に松山都市圏で分譲事業を開始し,現在も分譲事業を継続している.彼らは,宅地開発から販売まで自社で行う業者と,完成した宅地を購入して分譲事業を行う業者の2つのタイプに分かれた.宅地開発から全て行う業者は,地元の土地市場に入り込むために社員を長く愛媛支店に配属するなどの工夫を行い,土地の仕入れに力を入れている.また,建築数目標の達成のために,建売住宅を値引き販売するというメーカーらしい戦略が見られた.今後は住宅建築目標を達成するために,県内各地にいる社員を松山に呼び集め,集中的に営業を行っていくようだ.<br> 地元木材業者は,自社の保有地・木材を活用するために1960年代から分譲事業を行っていた.木材業者は木材や分譲事業以外にもホテル業・スーパーのフランチャイズなど,事業範囲を拡大していったが,1990年代の不況と木材業界の低迷により,2000年ごろに大幅な事業縮小を余儀なくされた.そのため,現在は分譲事業をほとんど行っていない.木材業者による分譲は,住宅需要の多かった一時期にだけのみ行われた特殊なものであった.<br> 松山都市圏で分譲事業を行った業者の多くが不動産業者・住宅建築業者で,1970年代に数名で起業した零細な業者が多かった.彼らは,1970年代~1980年代の旺盛な宅地需要を受け,資金に目処が付き次第,分譲事業に参入した.しかし1990年代以降,好景気時に宅地を造成しすぎた業者や,世代交代に失敗した業者が相次いで倒産した.現在,分譲業者が取っている戦略は,①創業当時からの事業を継続する,②建売分譲をやめ,宅地分譲に特化する,③建築条件付き宅地分譲に特化する,という3つのパターンである.また,近年は郊外部の地価の下落が継続していることから,既に市街化した地域の農地や,老朽化したアパートの跡地を開発するケースが増加している.しかし,土地を保有している事をリスクに感じる業者が多く,建売住宅を建てて値引き販売をしたり,建築条件を外したりといった戦略をとる業者も出てきている.<br> 松山都市圏で開発を行う業者は,需要減少・地価下落の中で様々な戦略を取理,生き残理を測っている.現在の分譲住宅市場を取り巻く環境は芳しくない.しかし,松山都市圏で長く分譲事業を続けてきた業者は,小規模ながらもうまく時代に対応しながら不況期を生き残ってきている.今後も柔軟な対応を取れる業者が生き残っていくだろう.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845712970128896
  • NII論文ID
    130007412057
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000226
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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