地方都市の中心市街地における不動産証券化の可能性

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  • Perspective of real estate securitization in local cities

抄録

1.不動産証券化の役割<br><br> 不動産証券化とは,賃料収入が期待できる不動産を裏付け資産として証券を発行し,その証券を投資家等に売却することで,不動産の流動化・金融商品化を進める仕組みである.不動産を購入する投資家の視点から見れば,小口化された証券は実物不動産よりも少ない金額で取引できるほか,会計や税制上のメリットもある.一方,不動産を売却する原所有者の視点から見れば,開発資金の早期回収が可能になるほか,リースバックにより継続して建物を利用したり原所有者も証券を取得することで所有権の一部を維持するなど,資金調達と資産運用の選択肢を多様化させる効果が見込まれる.<br><br> ただし証券化の対象となる不動産は,証券化のコストに見合うだけの規模と長期的に安定した賃料収入の見込みが必要とされる.このため不動産市場の規模が小さく,需要も縮小傾向にある多くの地方都市では,不動産証券化は困難であるといえる.実際に不動産証券化の分布は,東京圏に約66%(6,236/9,441件)が集中する一方で,地方圏の県庁所在地では10件以下の都市が過半を占めており,大都市圏への集中傾向が著しい.<br><br> 2000年前後の不動産証券化の黎明期に期待された役割は,滞留する不動産の流動化と不動産取引の活発化による価格の下支え,さらには値上がり益を期待したキャピタルゲイン投資から有効活用による賃料収入を期待するインカムゲイン投資への不動産所有意識の変革にあった.東京圏をはじめとする大都市圏の不動産証券化は,2008年の金融危機による信用収縮を乗り越え,収益価値による不動産価格決定メカニズムの普遍化と不動産価格の再上昇といった成果を上げてきた.これに対して,地方都市での不動産証券化が地域経済や不動産の所有構造に及ぼしたインパクトはほとんど無い.<br><br>2.地方都市における不動産証券化の実例<br><br> だが一方で,数は少ないながらも,地方都市において不動産証券化手法を利用することで,中心市街地の再開発事業を成功させた事例もある.香川県高松市の丸亀町商店街では,商店街を集約化する市街地再開発事業を不動産証券化の活用により成功させている.市街地再開発事業は,既成市街地における店舗の共同化や大規模化の手法として従来から行われてきたが,2000年以降地方都市における市街地再開発事業は減少傾向にある.この背景には,不動産価格の下落により保留床を売却しても事業費を賄えないという採算上の問題や,再開発ビルの集客力への不安と言った運営上の問題などがある.<br><br>丸亀町商店街では再開発ビルの床を,まちづくり会社と地権者の出資する保有会社,不動産証券化の器である特別目的会社,上層階の分譲マンション部分に分割して処分することで事業費の問題を解決した.中でも特別目的会社への売却部分では地権者,金融機関に加えて公的資金を得ることで円滑な資金調達を可能にしている.また商業部分の管理・運営をまちづくり会社に一括して委託することで,テナントミックスや集客イベントなどを一体的に実施している.結果として,事業費の問題,運営上の問題の両方を解決したと言えよう.<br><br>3.おわりに<br> 不動産証券化による不動産の投資商品化は,投資マネーによる価格の乱高下などの問題をはらみつつも,所有と利用の分離による不動産の有効活用につながるものである.また地方都市においては,投資商品化とは異なった文脈で,不動産証券化が実施される事例も生じている.低未利用空間の増加した地方都市の中心市街地において,不動産証券化の活用は,有効な空間供給のための重要な選択肢となる可能性を持っている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845712971800704
  • NII論文ID
    130007411875
  • DOI
    10.14866/ajg.2018s.0_000076
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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