ビタミンD受容体リガンドの創製

DOI
  • 橘髙 敦史
    帝京大学薬学部医薬化学講座薬化学研究室
  • 澤田 大介
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科精密有機合成化学分野

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抄録

抗くる病因子としてビタミンDが命名されたのは,90年前の1925年である.それ以前からタラ肝油がくる病に有効であることが知られていたので,栄養学的には100年の歴史がある.ビタミンD分子(セコステロイド骨格)の起源は,生命進化過程の初期と考えられ,ステロイド生合成経路を獲得した動植物プランクトンの7-デヒドロコレステロールやエルゴステロールに太陽光が当たって自然に生じる,積極的な機能を持たない生理的に不活性な最終産物として登場したと考えられている. B環に共役ジエン構造を持つ7-デヒドロコレステロールや,エルゴステロールに紫外線Bバンド(UVB:280~315nm)が照射されると,電子環状反応が起こってB環が開裂し,続く熱異性化反応([1,7]シグマトロピー転位)で前者はビタミンD3へ,後者はビタミンD2へと変換される.この2段階に酵素は全く関与せず,ビタミンDが生合成される際にはこの段階でルミステロール,タキステロール,スプラステロール等の副生成物が生じ,珍しく正確さに欠ける生合成経路である.ヒトの皮膚でも全く同じで,有史以前のこの大雑把なビタミンD3生合成の伝統を守っている.また,光反応と熱異性化は平衡反応である.例えば体温でビタミンD3は,先の[1,7]シグマトロピー転位を介し7~8%のプレビタミンD3との平衡混合物を与え,純粋なビタミンD3溶液を常温で調製しようとしてもそれは不可能である. ビタミンD生合成時の副生成物およびプレビタミンDが我々の体内には常に共存し,代謝を受け,それらが更に数多くの類縁体を与える(図1).医薬品化学者から見れば,どの誘導体が医薬品となり得るのか興味が尽きないのではないだろうか.<br>さて,ビタミンDは原始的生物からすれば役立たずの分子であったが,やがて魚類の進化を経て陸上に上がった脊椎動物では,骨を重力に耐え得る骨格維持に使うだけでなく,カルシウムのリザーバーとしても活用し,活性型ビタミンDが重要な役割を担う生命システムを構築していった.ここに至るには,活性型ビタミンDをリガンドとする核内受容体(vitamin D receptor:VDR),P450系のビタミンD代謝活性化酵素/不活性化酵素や血中ビタミンD結合タンパク質(vitamin D binding protein:DBP)を進化の過程で完備し,陸に上がるまでに全てを獲得する必要がある.ヒトではリンの恒常性維持ともリンクして,活性型ビタミンDは数百の遺伝子発現を制御する生命維持に必須の分子となった.両生類,は虫類,鳥類,ほ乳類にとって少なくともビタミンD不足は,くる病を発症する.ヒトの骨の恒常性維持を基盤的支援するビタミンDであるが,最近の叢書ではくる病や骨粗しょう症のような骨疾患のみならず,がん(前立腺,乳,大腸,血液,皮膚),心血管系疾患,免疫系疾患,皮膚疾患,糖尿病,高血圧症,炎症,また筋力維持などとビタミンDとの関わりが取り上げられ,生命現象と健康維持の深いところまでこの分子が関与していることが分かる.

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 51 (3), 196-200, 2015

    公益社団法人 日本薬学会

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