日本産アワジチビロ属貝類の系統進化

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  • Phylogeny of the Genus Volachlamys (Bivalvia: Pectinidae) from Japan

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既報では,アワジチヒロ2型(アワジチヒロ型,ヤミノニシキ型)の差異について形態的,生態的,遺伝的に総合的研究を行ない,両型は同一種内の形態的多型であることを明らかにして,種名をVolachlamys hiraseiに続一すべきとした。今回はその続報として日本産アワジチヒロ属Volachlamys貝類の化石標本を調べ,その系統進化と分類学的扱いについて考察した。調べた化石標本は,長崎県の加津佐層(1.7 Ma)と北有馬層(0.9 Ma),兵庫県の舞子層(更新世前期〜中期)と高塚山層(0.49 Ma),愛知県の渥美層(0.45 Ma),千葉県と茨城県にまたがる木下(きおろし)層(0.125 Ma),および香川県高松市の臨海沖積層(0.006 Ma)から産出したものである。これらに加えて香川県沖で得られた現生のアワジチヒロの標本も併せて研究に用いた。標本は殻の計測を行ない,殻の重量を相対的に表わすために殻重量指数(SWI)を計算した。また,殻表にみられる成長輪から既報の方法によって成長を解析した。化石標本群中でヤミノニシキ型が出現したのは,渥美層で44個体中1個体,木下層で2個体中1個体,高松市の沖積層で39個体中17個体で,その他の産地のものはアワジチヒロ型のみの組成であり,このことから更新世中期頃からヤミノニシキ型が出現し始めたものと思われた。形態的に,殻のプロポーションや放射肋数は産地ごとにそれぞれ独特ではあるものの,著しく特殊な形態の個体群はみられなかった。一方SWIは,舞子層の個体群が顕著に小さく,他の産地ものに比べて殻が薄質で軽いものと思われた。また成長解析の結果,舞子層のものだけが著しく卓越した成長度を示し,現生種を含めた他の産地の標本群はかなり類似した成長度であった。これらのことから,舞子層の個体群だけが他の産地のものと生物学的に明らかに別系統であると思われた。日本産アワジチヒロ属の化石は一般にムカシチヒロ(ヤグラニシキ) Volachlamys yaguraiとされ,現生のV. hiraseiと別種とされている。V. yaguraiのタイプ産地である舞子層産の個俗群は明らかに現生種と別種とすべき生物学的特徴を有するが,しかし他の産地の化石個体群は現生種と明確に区別される特徴は見いだせなかった。これらのことから,舞子層産の個体にはV. yagurai,その他の産地の個体には現生種と同じV. hiraseiの学名を適用するのが妥当と考えられた。

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