スウェーデン家庭科におけるパフォーマンス評価を取り入れた学習モデルの検討

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タイトル別名
  • Study on Home Economics Learning Models Forcusing on Performance Assessment in Sweden

抄録

目的 わが国では2017-2018年に小、中、高等学校の学習指導要領が改訂され、資質・能力をベースとした思考・判断・表現重視のカリキュラムが施行される予定である。新学習指導要領では、知識習得型学習から探究型学習への転換が求められているが、実際の授業構成や評価方法については必ずしも明らかではない。探究型学習への転換は評価方法の変更と連動するが、教師にとってこの点を理解し実践を進めるのは容易ではない。本研究では、探究型の学習を奨励し、その評価基準を明示化した2011年改訂のスウェーデン家庭科シラバス(以下、2011シラバス)に着目した。学習目標の到達に関わるパフォーマンス評価への教師の理解促進を図るために開発された学習モデルについて、題材の構成と内容、実施方法等について分析し、その意義や有効性について検討する。<br>方法 2011シラバス改訂に対応して開発された2つの学習モデル『タコスの夜』『持続可能なランチ』について、1) 教師用解説書やシラバス関連資料の検討、2) 学習モデルを活用した授業の参与観察(2014年、2015年)、3) 学習モデルの開発を担当した家庭科教諭への面接調査(2014年、2015年、2017年)をもとに分析する。<br>結果 1.スウェーデンでは、思考判断を重視する新シラバスにおいて、子どもの生きて働く力を育てることにつながる教科別の評価基準を明示化し、その到達にむけて学習の工夫が試みられた。<br>2.家庭科は、「食物・食事と健康」「消費と金銭管理」「環境とライフスタイル」の3つの領域で中核的内容が設定されており、領域ごとに6段階の評価指標(ルーブリック)が示されている。<br>3.2011シラバス改訂に先立ち、教育省の委嘱を受けて大学教員1名と家庭科教員4名、助言者2名からなる作業部会が組織され、授業と評価を連動させた2つの学習モデルプランが作成された。<br>4.各学習モデルは、「授業資料」「評価手順」「教師用手引き」の3分冊からなり、教育庁のウェブで公開され、家庭科教師が自由に閲覧できるよう設定されている。また、2011シラバスへの改訂後、作業部会のメンバーが講師となり、各地区の家庭科教師への説明会が開催された。学習モデルの活用は強制ではないが、多くの教師は各学校の生徒の実状やカリキュラムに応じて柔軟に活用している。<br>5.2つの学習モデルのいずれにもパフォーマンス課題が組み込まれている。このうち『タコスの夜』は、スウェーデンの家庭でよく作られるタコス料理について、「健康」「経済」「環境」の3つの視点から食材を選択し、その選択を生徒同士で検討・改善するとともに、その食材で各自が調理し、結果を省察・評価するという学習である。他方、『持続可能なランチ』は、同様に3つの視点を考慮して献立を各自で作成し、食材を選択して調理し、省察・評価を行うものである。『持続可能なランチ』は『タコスの夜』に比べ、メニューや食材選択の幅が広いため、生徒の思考や体験のスケールはより大きくなる。但し、時間数もより多くを要するため、現場では「タコスの夜」を活用する例が多い。<br>6.教師用手引きには、学習モデル授業の評価基準であるルーブリックが示され、「健康」「経済」「環境」の視点からの生徒の記述例が詳細に掲載されている。生徒の思考・判断や論理的な表現力をどう測るか、教師の理解を助ける手立てがとられている。<br>7.教師への面接調査では、以下のような指摘がみられた。(1) パフォーマンス評価の困難さを乗り越えるにあたり、とりわけ生徒の記述について教師が評価するうえで、本学習モデルは参考になる。(2) 本学習モデルを組み込んだカリキュラムを実施することを通して、以前に比べ生徒に考えさせ自主的に活動させることに目が向くようになった。以上のことから、本学習モデルは、授業にパフォーマンス評価を取り入れるうえで、また、生徒主体の授業づくりにむけて教師自身の授業観を育むうえで一定の有効性を持つことがうかがわれる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845712998986240
  • NII論文ID
    130007472555
  • DOI
    10.11549/jhee.61.0_8
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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