近代皇室の土地所有に関する一考察
書誌事項
- タイトル別名
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- The study of land ownership of the Japanese Imperial Household
- 北海道御料地除却一件を事例として
- Focusing on the elimination of the Imperial Property, Goryochi, in Hokkaido
説明
本稿は、「皇室はなぜ土地をもつのか」という根源的課題について、「北海道御料地除却一件」を事例として歴史的に検討するものである。<br> 本稿では、以下のことを明らかにする。まず、北海道御料地除却の過程で、御料地は除却して北海道庁の開拓事業に充てるべきだとする立場と、御料地は森林として保存し、民需供給・国土保全に役立てるべきだとする立場との相克が生じたことである。前者は宮内省―御料局、道庁―内務・農商務省の立場であり、後者は御料局札幌市長長の山内徳三郎の立場であった。しかし前者は、「拓殖」の題目の裏に皇室財産増殖・経営合理化という真の目的をもつ宮内省―御料局が「拓殖」事業を本務とする道庁を利用した形であり、そこに官林払下げによって地方自治の基盤強化を求める内務大臣井上馨とそれに賛同する農商務省が加わることで、除却の推進力となっていた。これに対し、後者の立場をとる山内は、元御料局長であり、自身の立場に近い品川弥二郎に頼るも、除却を食い止めることはできなかった。<br> こうした様々な立場は、皇室の土地所有に対する観念として見たとき二つに分類することができる。分類の基準は、皇室の土地に皇室の経済基盤強化以上のものを見るか否かである。一方は、皇室はあくまでその経済基盤強化のために土地をもつべきだとする観念である。土地選定の基準は収益性である。<br> それに対し、もう一方の観念は、皇室は土地をもつことによって民需供給や国土保全という役割を担うべきだとする観念である。筆者はかつて明治20年代の御料鉱山や長野・静岡の御料林において、皇室は民間産業の保護・勧奨のために土地をもつべきだと考えられていたことを明らかにしたが、北海道御料林において求められた役割は、民需供給・国土保全であった。しかもそれは、本来国家行政の職掌とされながら、現状は皇室にしかなしえない役割であると訴えられる点に特徴があった。<br> 本稿の検討は、従来言われてきたような、皇室はその経済基盤強化のために土地をもつのだとする御料地観も、当時いくつかあった御料地観の一つのバリエーションにすぎなかったことを示すものであり、今後はそれが一つに収斂していく過程・原因をこそ歴史的に問わねばならないだろう。
収録刊行物
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- 史学雑誌
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史学雑誌 125 (9), 1-37, 2016
公益財団法人 史学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390845713012653952
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- NII論文ID
- 130007496537
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- ISSN
- 24242616
- 00182478
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可