バウハウスと同時代の作曲家たち

書誌事項

タイトル別名
  • A Note on Bauhausler and Their Contemporary Composers
  • バウハウス ト ドウ ジダイ ノ サッキョクカ タチ

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説明

ピーター・ゲイが、ヴァイマール共和国を、あるいはそのモダニティを代表するもののひとつとして指摘したバウハウスは、1919年4月(ヴェルサイユ条約締結の2か月前)ヴァイマールに開校し、1933年8月(ナチス政権成立の7か月後)ベルリンで閉校した、造形Gestaltungの高等教育機関である。このバウハウスは1925年から30年にかけて、自らの名前を冠したバウハウス叢書Bauhausbucherを出版しているが、刊行された14巻の著者とタイトルは次のとおりである。1.ヴァルター・グロピウス.『国際建築』.1925.2.パウル・クレー.『教育スケッチブック』.1925.3.アドルフ・マイアー.『バウハウスの実験住宅』.1925.4.オスカー・シュレンマー編.『バウハウスの舞台』.1925.5.ピート・モンドリアン.『新しい造形』.1925.6.テオ・ファン・ドゥースブルク.『新しい造形芸術の基礎概念』.1925.7.ヴァルター・グロピウス.『バウハウス工房の新製品』.1925.8.ラスロ・モホリ=ナギ.『絵画、写真、映画』,1925.9,ヴァシリー・カンディンスキー.『点と線から面へ』.1926.10.J.J.P.アウト.『オランダの建築』.1926.11.カジミール・マレーヴィチ.『無対象の世界』.1927.12.ヴァルター・グロピウス.『デッサウのバウハウス建築』.1930.13.アルベール・グレーズ.『キュビズム』.1928.14.ラスロ・モホリ=ナギ.『材料から建築へ』.1929.このうちの8巻目、すなわちモホリ=ナギの『絵画、写真、映画』の刊行後に、出版元であるミュンヘンのアルベルト・ランゲン社Verlag Albert Langenから出された出版案内(プロスペクタス)には、9巻以降の続巻として、クルト・シュヴィッタースの『メルツ・ブッフ』、フィリッポ・トマソ・マリネッティの『未来主義』、トリスタン・ツァラの『ダダイズム』、ラヨシュ・カシャークとエルネー・カーライの『MAグループ』、テオ・ファン・ドゥースブルクの『デ・ステイル・グループ』、フリートリヒ・キースラーの『デモンストレイションの新しい形態』、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの『建築について』、ル・コルビュジエの『建築について』等々、30タイトル以上が予告されている。(この案内には11巻の著者マレーヴィチの名前はない。)実際に刊行されたものと、未刊に終わったものの著者名とタイトルとを併せて見れば、編者であるグロピウスとモホリ=ナギがこの時点でバウハウス叢書に-ひいては出版主体たるバウハウスという組織そのものに-どういう性格を与えようとしていたかがほの見えて興味深いものがあるが、しかし、この出版案内のなかでとりわけ目を引くのは、パリで活躍したアメリカ人作曲家ジョージ・アンタイルがバウハウス叢書『音楽機械Musico-mechanico』の著者として予告されていることではあるまいか。カンディンスキーはアルノルト・シェーンベルクにヴァイマールでの職を斡旋しようとしたと伝えられ、アメリカに渡ったモホリ=ナギはジョン・ケイジとその実験音楽に協力しようと努力し、またヨーゼフ・アルバースなどが参加したブラック・マウンテン・カレッジでは積極的に音楽がとりあげられた経緯がある.バウハウスの多くの教授陣が音楽舞台-の要素としての音楽だけではなく、いわゆるシリアス・ミュージックとしての音楽-に対して、造形および造形教育に深く関わるものとして注目していた可能性は否定しにくい.リベラル・アーツと称して音楽を備えるべき教養のひとつとみなしてきた伝統にあっては、バウハウスがことさら音楽を軽視したと考える方が不自然ではあるが、少なくともグロピウスとモホリ=ナギは、ここで見るようにバウハウス叢書という枠組みの中にアンタイルの著作を加え、さらにはハインリヒ・ヤコビによる『創造的音楽教育Schopferische Musikerziehung』をも加えようと企画している.一方で、バウハウスの周辺には、ヨーゼフ・マティアス・ハウアーのようにヨハネス・イッテンと協働すべく直接バウハウスの門を叩いた音楽家もいれば、バウハウス週間の演奏会に参加した音楽家も多い。本稿では、従来言及されることの少なかった、バウハウス関係者とアンタイルなどの同時代の作曲家たちの接触を通して、作曲家ないし音楽とバウハウスがどのような関係を維持していたのかについての考察-ひいてはバウハウスを機能主義のチャンピオンとみなす視点を転換するためのひとつの契機に関する作業-の緒を研究ノートとして記しておきたい。

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