紀の川市における桃作農業の展開
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- 児玉 恵理
- 和歌山工業高等専門学校
書誌事項
- タイトル別名
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- Development of Peach Farming in Kinokawa City
説明
はじめに<br><br> 農産物のブランド化が進むにつれて,産地の新たな対応が求められている.従来の研究では,果樹産地における流通や品種更新といった取り組みに言及してきた.桃は,他の果樹に比べ収益性が高く,消費者の人気も高く,需要拡大が見込まれ,輸入品も少ないといった利点がある.そのために, 桃は,農業展開を考えるうえで,妥当な作物であると考えられる.高所作業が多く,夏期の高温期に収穫作業が集中することから,高齢化の進行に伴い,労働力の減少が問題となっている.本研究は,果樹生産が盛んである和歌山県紀の川市を研究対象地域とし,労働力確保の実態に着目して,桃作農業の展開を明らかにすることを目的とする.<br><br>紀の川市における桃作農業の展開<br><br>1980年ころに和歌山県は,西南暖地という早場の有利性を生かし,「柑橘園地再編対策事業」等により,桃への転換が促進された.それにより,桃の栽培面積が2.8倍と大幅に増加し,1985年の3%から7%にシェアを高めている.2016年時点の和歌山県の桃生産量は全国4位であり,全国の桃の生産量の割合は7.8%である.約30年にわたり安定した桃作農業がなされている.和歌山県において特に桃の栽培が盛んである紀の川市では,「あら川の桃」といったブランド桃が栽培されている.紀の川市桃山町を中心に生産される「あら川の桃」は関西地方を中心に出荷されている.この地域は,地名に桃がついているように,桃栽培に最適な砂礫を含んだ水はけのよい地質と温暖な気候ゆえ,良質な桃ができる.<br><br>1994年に「あら川の桃」及び「あらかわの桃」の名称を特許庁に商標登録した.しかしながら,産地偽装の問題が多発したために,2002年1月に桃農家や生産組合が「あら川の桃振興協議会」を設立し,登録商標の一元管理と桃の品質向上に取り組んでいる.2005年には,紀の川市産の桃の農業産出額は,全国2位となった.<br><br>紀の川市は大阪近郊に位置しており,桃の開花の時期にあたる3月下旬から4月上旬までと,桃の出荷時期にあたる6月中旬から8月中旬まで,年に2回,多くの観光客が訪れる.行政は,桃を重要な観光資源として,リピーターを増やすために,農協や桃農家と連携し,観光農園や直売所を開設するなどのグリーンツーリズムへとつなげている.また, 大阪市からIターンで就農した農家は,高齢化により桃作が困難となった畑地を借用し,外国人労働者やボラバイターなどを雇用し,積極的に桃の栽培をしている.<br><br>おわりに<br><br>紀の川市における桃は,重要な観光資源となり,紀の川市は,春には桃の花見,夏には桃狩りができる観光スポットとなっている.関西地方の顧客をターゲットにした桃狩りにより,農家の収穫作業時間が短縮化できる.「あら川の桃」の場合、直売や宅配により,全国の顧客にブランド桃を高付加価値で購入してもらうことも可能となる.桃の剪定及び収穫作業の補助や出荷作業には多くの人手が必要となる.品種ごとに収穫期間が短く,労働力の確保が重要である.紀の川市における新規就農者は,収穫体験,収穫前作業をグリーンツーリズムとして取り込み,観光の側面を重視した農業労働力を確保している.
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2018a (0), 119-, 2018
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390845713026411520
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- NII論文ID
- 130007539828
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可