Issues of coral reef conservation and role of geography

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  • サンゴ礁保全の課題と地理学の役割

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2018年は「国際サンゴ礁年」である。これはサンゴ礁保全のために1994年に発足した「国際サンゴ礁イニシアティブ(ICRI)」が定めるもので、今年は、1997年、2008年に続くものである。最近数十年の間に、サンゴ礁保全の必要性が認識されるようになってきた。しかし、ここ10年ほどの間のサンゴ礁保全研究や活動を見ていると、ある種の偏りを感じる。それは、研究対象や保全対象のスケールについての偏りである。造礁サンゴという生物への偏りであり、また造礁サンゴの移植や環境ストレスに対する生物学的耐性に関する研究とその応用への偏りである。10-3mの造礁サンゴの体内で起こる10-5m以下のミクロスケールの現象が研究の中心となってきているのである。しかし、サンゴ礁保全の保全対象は造礁サンゴだけではない。サンゴ礁は造礁生物によって作られた地形であり地質構造である。そして、造礁サンゴを含む多種多様な生物間の関係性、それらの生物群集と地形、海水運動、底質、水質といった物理化学的環境との関係性によってサンゴ礁の生態系は成り立っている。<br><br> もちろん、10-3m以下のスケールの研究も極めて重要である。しかし、それらの研究成果あるいは技術を現実のサンゴ礁の中で保全策として用いる場合には様々な疑問がわく。その保全策がサンゴ礁のどのような環境条件下(地形、海水運動、堆積物移動、底質、水質など)で行うことが適切なのか。どのようなリスクが想定されるのか。他の生物群集への影響や造礁サンゴ群集つくる地形変化が周辺環境に与える影響はないのか。サンゴ礁上の“場”の特性とそれを維持しているダイナミズムを把握する101m以上の現象の研究も不可欠なのである。そしてそもそもそのような”場”の保全自体が重要なのである。<br><br> このような保全研究、活動の変化は、1998年に全世界のサンゴ礁で起こり、その後も頻発している大規模白化現象がきっかけとなったと思われる。これは地球温暖化に起因するものされる。地球温暖化は特定集団、特定の人間活動に起因するのではなく、広く人類の活動が原因だととらえることによって責任が不明確となる。そのような認識の結果、残念なことに原因が明確なサンゴ礁劣化の防止・原因除去に対して目をつぶりがちになっていると感じる。今もなお、健全な状態で維持されているサンゴ礁が埋め立てや掘削、護岸工事などで失われていっている現状にはあまり目を向けられない。日本の「国際サンゴ礁年」のパンフレットでは完全に欠落している。<br><br> 1980年代から90年代にかけて石垣島・白保で新空港建設が計画をされた。その計画は、白保サンゴ礁の礁原・礁池を大規模に埋め立てるものであった。その際、地元住民の「海の畑」として価値づけてきた礁原・礁池を守る運動を展開した。そこには目崎茂和先生をはじめとした多くの地理学者が加わった。この活動は、生物を守ることが目的でなく、101m以上のスケールのサンゴ礁を守る運動であった。そして、そのようなサンゴ礁という”場”を価値づけてきた地域の人々と自然とのかかわりを守る運動であった。この運動は、サンゴ礁保全の重要性を沖縄だけでなく全国に発信した日本のサンゴ礁保全の原点とも言うべきものである。<br>本シンポジウムでは、サンゴ礁の”場”の価値付けとその変容、地球規模の環境保全と地域の自然保護、生物学・生態学から見た地理学への期待などのご発表をいただき、サンゴ礁保全で果たすべきにおける地理学の役割について議論を行いたい。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390845713026418048
  • NII Article ID
    130007539865
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_34
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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