中山間地域の高等学校によるESD学習の実践と課題

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タイトル別名
  • Challenges of ESD learning at a high school in mountainous areas
  • 岡山県内の3高校を事例に
  • A case study of Okayama prefecture,Japan

抄録

1.はじめに<br><br> 近年、日本は急速に少子高齢化が進み、地域の活気が失われている。特にこの傾向が顕著であるのが中山間地域である。中山間地域は土地は広いが年々人口が減少しており、学校の統廃合も進んでいる。そこで学校の統廃合を回避するために、中山間地域と高校の連携が進んでいる(例:島根県立隠岐島前高校の高校魅力化事業)。同様に、本研究の対象地である岡山県では、主に2000年代から中山間地域の高校が地域と連携したESD学習(持続可能な開発のための教育、Education for Sustainable Development)が先進的に取り組まれている。<br><br>2. 研究目的と方法<br><br> 本研究では、岡山県内の中山間地域に属するESD学習先進事例である岡山県立矢掛高校、和気閑谷高校、林野高校の取り組みを取り上げる。そしてESD学習の効果を教育と地域の面から評価することを通して、その現状と課題を明らかにする。教育の面からは、高校生と卒業生、教員などへの聞き取り調査を通じて、地域の面からは、地域住民への聞き取り調査を通じて評価する。調査対象者の内訳は次のとおりである。矢掛高校は高校生10名と教員2名(元矢掛高校教員を含む)、卒業生1名、関係先スタッフ4名、和気閑谷高校は高校生2名と教員1名、地域住民2名、地域おこし協力隊員1名、和気町教育委員会職員1名、卒業生保護者1名、林野高校は高校生7名と教員1名、NPO法人職員1名、地域住民1名である。なお、一部の高校生に対しては、数名のグループインタビューも行った。<br><br>3. 結果と分析<br><br> 教育の面では、ESD学習を通じて生徒にコミュニケーション能力や責任感など、内面的な発達が促されていることがわかった。そして教員の方が進学に関する効果を重視していることがわかった。地域との接点という視点では、まず矢掛高校では、生徒が週に1回矢掛町内の実習先で勤務している。和気閑谷高校では、閑谷学校ボランティアガイドとして生徒が閑谷学校の歴史などを説明する活動を行っている。林野高校では、地域のNPO法人が「みまさか学」のプログラムを考えたり授業をしたりしている。このように地域の面では、いずれの高校も地域との接点をもっている。しかし聞き取り調査では、矢掛高校の地域からの評価が高いことと対照的に、和気閑谷高校と林野高校は地域からの評価が低く、地域側と高校側で方向性の違いによるミスマッチが起きていることがわかった。この背景要因として①生徒のモチベーションの差、②学校側による生徒管理の難しさ、③「課題解決型学習」という目標設定上、地域の課題解決の姿勢が前面にでていることが指摘できる。①と②はプログラムの改善で解決できるが、③は地域と教育がどのように関わるべきかという本質的な問題であるといえる。<br><br>4. 価値創造型の地域づくりの必要性<br><br> これからの地域づくりは課題解決型ではなく、価値創造型の地域づくりが求められる(吉本,2011)。各学校の取り組みを分類すると、矢掛高校は価値創造型、和気閑谷高校と林野高校は課題解決型であるといえる。矢掛高校のESD学習である「やかげ学」では住民と一緒に働き、YKG60では矢掛の″価値″を再発見できるような活動(例:耕作放棄地を利用した雲の上カフェなど)を行っている。このため、取り組みの前提として「地域の″価値″を認める」という姿勢が考えられるからである。一方で和気閑谷高校と林野高校のESD学習の目標は「課題解決型学習」であり、その前提には地域の現状を問題視し、これを改善しようとする姿勢がみられる。このため、課題解決型に当てはまると考えられる。価値創造型の矢掛高校と対照的に、課題解決型の和気閑谷高校と林野高校はミスマッチが起きていることから、課題の解決に取り組む前に、まずは地域の″価値″を認めることが必要であると考える。すなわち地域にあるものを活かし、″価値″を見出していく。そして地域と高校が協働できる関係性を構築することが、ESDの望ましい形であり、本質的な問題を解決するための一助となると考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713026420352
  • NII論文ID
    130007539858
  • DOI
    10.14866/ajg.2018a.0_20
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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