昆虫の光周性機構:ルリキンバエでの解析

  • 濵中 良隆
    大阪市立大学大学院理学研究科 生物学科 情報生物学研究室

書誌事項

タイトル別名
  • Mechanisms of insect photoperiodism: analysis in <i>Protophormia terraenovae</i>
  • コンチュウ ノ コウシュウセイ キコウ : ルリキンバエ デ ノ カイセキ

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抄録

<p>動物は環境シグナルから季節の到来を知り,季節に応じた生活史を形成する。環境シグナルの中でも,日長(光周期)は年ごとの変動がなく,多くの生物が光周期を使って成長や繁殖の時期を調節している。このような光周期に対する生物の反応は光周性と呼ばれる。ルリキンバエはクロバエ科に属する体長約1cmの大型のハエで,日本では青森県や北海道といった高緯度地方に生息する。本種の成虫休眠は秋の短日と低温によって誘導される。休眠に入った成虫は雪の下の落ち葉の隙間などに身を潜めて冬を越すと考えられており,北国の厳冬を生き抜いた個体だけが翌年の春先〜初夏に繁殖して子孫を残す。これまでの研究によって,卵巣発達にみられる光周性に重要な光受容器(複眼の視細胞),内分泌器官(アラタ体),脳内神経分泌細胞(PIニューロンとPLニューロン)に関する知見が蓄積している。さらに,概日歩行活動リズムを駆動する概日時計ニューロン(s-LNv)が本種の光周性に重要な役割を果たすこと,そしてs-LNvを含む概日時計ニューロン群(LNv)が休眠誘導に重要なPLニューロンと神経接続することが,比較的最近の研究によって明らかとなった。また,脳内での概日時計遺伝子periodの発現パターンやLNvでのPERIODの細胞内局在パターンが,光周期条件によって変化することが示されている。複眼で受容した光情報はLNvで長日あるいは短日といった光周期の情報へと変換されている可能性が高い。LNvと神経接続するPLニューロンはLNvからの短日情報に基づいて電気生理学的特性を切り替え,休眠を誘導すると考えられる。本稿では,非モデル生物であるルリキンバエに焦点を当て,昆虫の光周性機構について解説する。</p>

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参考文献 (53)*注記

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