「分子動画」で見る分子性導体の光誘起ダイナミクス

書誌事項

タイトル別名
  • Observation of Photoinduced Dynamics in Molecular Conductors―Molecular Movie―
  • 最近の研究から 「分子動画」で見る分子性導体の光誘起ダイナミクス
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ 「 ブンシ ドウガ 」 デ ミル ブンシセイ ドウタイ ノ ヒカリ ユウキ ダイナミクス

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抄録

<p>光照射により固体中に光励起状態を作ると,それをきっかけとした物性変化が永続的にもしくは過渡的に起こることがある.電場や磁場に誘起された状態変化とは違いこの光励起による状態変化は,用いる波長を選ぶことにより非接触かつ選択的に励起状態を作り出せるなどの特徴を持つ.また,励起光としてパルス光を用いれば,現在我々が制御可能なうちで最短時間幅での状態変化を起こせることも重要で,非常に高速に自在な物性制御を実現観測できる魅力がある.このような光誘起現象研究の進展のためには,光励起によって引き起こされる電子状態や結晶構造の変化を,初期段階から経時的に観察し,どのような速さで,かつどのような順番で変化が進むかを調べる,光誘起ダイナミクスの研究が必要不可欠である.</p><p>光誘起ダイナミクスの初期過程を見るためには,物質を構成する原子群の動く速さ(フォノンや分子振動の周期)を考えると,非常に高い時間分解能(サブピコ秒:ピコ秒は10-12秒)を持つ測定手法が必要である.それを実現するのが,ポンププローブ型の時間分解分光法である.サブピコ秒程度の時間幅を持つ超短時間幅パルス光を,光励起とスペクトル観測の両方に用いることで,高い時間分解能を達成できる.しかし,光学スペクトル変化の観測だけでは,光誘起ダイナミクスの一側面しか見ていない.そこで,別の種類の目として,時間分解電子線回折測定が注目を集めている.励起光パルスと完全に時間的同期のとれたサブピコ秒の時間幅を持つ電子線パルスを利用すれば,ポンププローブ型の時間分解構造解析により,原子や分子が動く様子を高い時間分解能で直接観測することが可能となる.</p><p>我々は最近,光励起により引き起こされる高速な状態変化の様子を,時間分解分光およびパルス電子線による構造解析により観察し,「分子動画」の作成に成功した.対象としたのは,分子性結晶であるMe4P[Pt(dmit)2 2の電荷分離相である.電荷分離相では,価数の異なるPt(dmit)2分子二量体が整列した結晶構造となっている.二量体内電子遷移を光励起することにより,二量体の構造変化と電荷分離相崩壊の過程,さらにはその回復の過程を「分子動画」により,直接眼で見ることが可能になった.この手法の活用で,スペクトル測定だけでは理解不能であった構造変化ダイナミクスの観測が可能となり,分子変形,格子変形,電子構造変化の間の密接な関連性を,なるべく先入観がない形で,比較し議論することができるようになった.このような汎用的かつ多角的な評価法でダイナミクスを観測することは,多彩な光誘起現象について,今まで気づかなかった新しい見方を与え,そのミクロ機構解明,さらには今後の新しい光機能性物質の開発に役立つと考えている.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 73 (12), 864-869, 2018-12-05

    一般社団法人 日本物理学会

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