ヒ素の血管毒性 - 地下水によるヒ素汚染地域における健康影響から考える
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- 姫野 誠一郎
- 徳島文理大学薬学部衛生化学講座
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- Khaled HOSSAIN
- ラジシャヒ大学、バングラデシュ
書誌事項
- タイトル別名
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- Vascular toxicity of arsenic among humans living in arsenic-polluted areas
抄録
<p>ヒ素による健康影響の重篤な例として台湾のBlack foot disease(黒足病)が知られている。病理所見から、患者の70%は閉塞性動脈硬化症、30%が閉塞性血栓性血管炎を起こしていることが報告されている。これらは、糖尿病の重症化例などで観察される血管障害と同じである。すなわち、ヒ素は血管毒である。台湾のヒ素汚染地域は、極端に高いレベルのヒ素曝露があったと考えられているが、世界各地のヒ素汚染地域においても、高血圧、心臓疾患などが増加していることが報告されている。我々は、バングラデシュのヒ素汚染地帯で調査を行い、ヒ素の汚染レベルと血圧、血管障害の指標との関係について調べてきた。個人レベルでのヒ素曝露レベルを把握するため、井戸水のヒ素濃度だけでなく、毛髪、爪のヒ素濃度を測定した。また、血液生化学検査を行い、エンドセリンの前駆体(Big-ET)、脂質レベル(TG, LDL-C, HDL-C, 酸化LDL-C)、CRP、sICAM-1、sVCAM-1、thrombomodulinなどの濃度を測定した。対象者のBMIは平均で20~21、平均年齢は30代半ばであるが、ヒ素曝露群で高血圧の率が高かった。また、ヒ素濃度依存的にBig-ETの濃度が上昇したことから血管収縮作用が強まっていると考えられる。血中脂質のうち、酸化LDC-Cが増加、HDL-Cが減少し、酸化LDL-C/HDL-Cの比がヒ素曝露レベル依存的に増大した。さらに、CRPが増大し、sICAM-1、sVCAM-1、thrombomodulin濃度が増大していた。これらの結果は、ヒ素によって酸化ストレスや炎症が起こり、動脈硬化に至るような血管内皮細胞の炎症性障害が引き起こされていることを強く示唆する。これまで、ヒ素による皮膚障害や発がんに注目が集まっていたが、ヒ素が血管毒であるという観点から、その毒性を再検討する必要がある。</p>
収録刊行物
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- 日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会学術年会 46.1 (0), W8-1-, 2019
日本毒性学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390845713083314176
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- NII論文ID
- 130007677617
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可