機能的電気刺激療法(FET)により巧緻動作改善と脳機能再編を認めた一症例

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  • -fMRI・TMSによる神経生理学的指標を用いたFETの効果検証-

抄録

<p>【はじめに・目的】 </p><p>機能的電気刺激療法(Functional electrical therapy; 以下FET)は電気刺激を伴う機能的運動の集中的な反復により、中枢神経障害後の大脳皮質における運動-感覚領域の再組織化を促すことを目的とする(Popovic,2013)。FETにより脳卒中症例(Chan, 2008)や、脊髄損傷症例(Peckham,2001)に対し、上肢運動機能の改善が認められているが、中枢神経系に及ぼす影響の検証は不十分である。本研究は頭部外傷症例一例を対象とし3ヶ月間のFETを行い、運動野の機能地図およびつまみ運動中の運動野賦活量をTMSおよびfMRIを用いて計測し、FETの脳機能への効果を明らかにすることを目的とした。</p><p>【症例紹介】</p><p>30代男性。7年前に交通事故により頭部外傷を受傷。びまん性脳損傷、多発性外傷、肺挫傷、出血性ショック等の診断を受けICUに入院。2ヶ月後に回復期病院へ転院。5ヵ月後に屋外歩行軽介助レベルとなり自宅退院。その後、自宅等での運動を続け、復職を果たした。Brs.Ⅵであり明らかな麻痺はないが、右上肢失調に起因する巧緻動作障害が残存し、改善のためFET研究への参加を希望された。</p><p>【経過】 </p><p>本研究は12週間の介入研究であり、右上肢へのFETを一日2時間、週3回、12週間集中的に行った。評価は介入前(Pre)、6週間後(During)、12週間後(Post0)に行い、さらに後効果の検証を6週間後(Post1)、12週間後(Post2)に行った。</p><p> [臨床評価]介入期間中、FIMは125/126点、FMAは219/226点のまま推移。MALは使用頻度が78/150点から79/150点へ変化し、動作の質は92/150点のまま推移した。</p><p> [書字動作能力]方法:巧緻動作能力の定量的指標として、ペンタブレット型PCを用いた書字課題を行った。Sin波追従課題中のペン先軌跡から加速度およびSDを算出し、書字中の震えを定量化した。結果:加速度および SDが減少し、書字が安定化した。</p><p> [fMRI] 方法:MRI(3.0T, Simens社製)内で非磁性体フォースセンサーを用い、右手指でのつまみ力調整課題(20%MVC)遂行中のfMRIを撮像した。解析はSPM12およびMarsbarを用いてROI解析を行い、つまみ運動中の運動野の最賦活領域を対象として信号強度を算出した。結果:信号強度(%)は-0.02(Pre)、2.03(During)、2.42(Post0)、2.47(Post1)、2.08(Post2)と上昇した。</p><p> [TMS] 方法:右手指つまみ(10%MVC)運動中にTMSマッピングを行った。表面筋電図の被験筋はFDIとし、Labchartによりデータを収録、MATLABを用いて解析を行った。結果:一次運動野内における手指筋支配領域面積(mm2)は、 44.56(Pre)、45.36(During)、92.08(Post0)、97.52(Post1)、92.84(Post2)と拡大した。</p><p>【考察】 </p><p>運動野機能地図の拡大および運動野賦活量向上は運動機能向上と相関することが知られている(Thickbroom, 2004, Philip,2014)。随意運動中のIa感覚神経を通じた求心性入力がFETにより増加し、継続的に反復したことが脳機能再編と伴う巧緻性向上に寄与したと考えられる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>研究に際してはヘルシンキ宣言および厚生労働省の「臨床研究に関する指針」に沿って研究を計画・実施した。また、本研究は筆頭演者所属機関の「ヒトを対象とした実験研究に関する倫理審査委員会」において承認を受け、実施した。被験者担当主治医にTMS・fMRI計測および電気刺激介入実施計画について説明し許可を得た。同時に被験者に対し、安全性および人権擁護のための配慮、個人情報の保護に関して文書により説明し、同意書により同意を得た。計測では日本神経科学学会の定めるガイドラインおよび申請者所属機関の定めるガイドラインを遵守し、安全面へ十分な配慮を行った。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), E-62_2-E-62_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713087555840
  • NII論文ID
    130007693191
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.e-62_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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