変形性膝関節症に対して脂肪組織由来幹細胞による再生医療を施行した一症例

DOI
  • 山下 真人
    社会医療法人 愛仁会 高槻病院 技術部 リハビリテーション科
  • 向井 拓也
    社会医療法人 愛仁会 高槻病院 技術部 リハビリテーション科
  • 廣瀬 綾
    社会医療法人 愛仁会 高槻病院 技術部 リハビリテーション科
  • 欅 篤
    社会医療法人 愛仁会 高槻病院 診療部 リハビリテーション科

抄録

<p>【症例紹介】 </p><p>脂肪組織由来幹細胞:Adipose tissue Derived Regenerative Cell(以下ADRC)は2001年Zukらによりヒトの皮下組織に存在することが報告された。ADRCは、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を有し免疫抑制作用も併せ持つことから再生医療や治療抵抗性免疫疾患に対する臨床応用が期待されている。近年、本邦でも変形性膝関節症(以下膝OA)に対してADRCによる再生医療が開始されており、当院においても2017年9月より再生医療開始している。今回、ADRCによる再生医療を施行された膝OA患者を経験したので、身体機能の変化と再生医療における理学療法士の必要性について検討したので報告する。</p><p> 80歳代女性。診断名:両膝OA。K-L分類(R/L):Grade2/Grade2。現病歴:約10年前より膝OAで他院通院。平成29年8月下旬より疼痛増悪。茶道をしており、今後も継続して正座したいと希望された。当院にて再生医療の説明を受けた所、手術を希望され左膝関節の再生医療目的で10月入院。入院当日に理学療法士による計測実施。同日ADRCによる再生医療実施。既往歴:60年前 卵巣嚢腫の手術。</p><p>【評価とリーズニング】</p><p> (術前評価)Japanese Knee Injury and. Osteoarthritis Outcome Score(以下J-KOOS):症状8点、こわばり3点、痛み14点、機能19点、活動24点、合計68点。Visual Analogue Scale(以下VAS):60/100㎜。ROM(R/L):膝関節屈曲145/130、伸展0/-5。CS-30 :10回、評価点2点。片脚立位(R/L):30秒以上/5秒。</p><p> (手術所見)両側大腿部より脂肪吸引を実施。脂肪採取総量は130㎖。セルーションにて分離精製を行い、ADRCを3㎖抽出。一部冷凍保存し、細胞濃度を測定。生細胞数計:1.67×10⁷個で投与可能と判断し、ADRCを左膝関節内に2㎖注入した。</p><p> (術後1か月)J-KOOS:症状6点、こわばり2点、痛み8点、機能15点、活動16点、合計47点。VAS:40/100㎜。ROM(R/L):膝関節屈曲145/130、伸展0/-5。CS-30 :12回、評価点2点。片脚立位(R/L):30秒以上/25秒。</p><p> (術後3か月)J-KOOS:症状7点、こわばり2点、痛み15点、機能17点、活動16点、合計57点。VAS:40/100㎜。ROM(R/L):膝関節屈曲145/130、伸展0/-5。筋力(R/L):膝関節伸展15.5㎏f/9.9㎏f、屈曲7.7㎏f/4.8㎏f。CS-30 :14回、評価点3点。片脚立位(R/L):13秒/5秒。</p><p> 1ヶ月時点では疼痛軽減傾向であったが、3か月後には再度疼痛増強。また、ROMの改善も得られていない状態であった。膝関節屈曲ROM制限について再評価を実施。膝蓋骨の可動性良好であり、関節包内運動も著明な制限認めず。膝関節屈曲時に筋の伸長痛認めず、脛骨外側後面インピンジメント徴候が認められた。</p><p>【介入方法と結果】 </p><p>術前・術後1ヶ月・3か月・6か月にJ-KOOS、VAS、ROM,CS-30、片脚立位時間を計測、3か月、6か月は筋力も計測。3か月時点に徒手での下腿内旋誘導を行うとROM(R/L):膝関節屈曲155/155と改善。その後、脛骨内旋誘導を行うようにテーピングを施行。その後、テーピングが剥がれるまで2~3日程度貼付していただくように指導。</p><p> (術後6か月)J-KOOS:症状3点、こわばり1点、痛み8点、機能9点、活動11点、合計43点。VAS:30/100㎜。ROM(R/L)膝関節屈曲155/155、伸展0/-5。筋力(R/L):膝関節伸展16.1㎏f/15.5㎏f、屈曲6.5㎏f/8.8㎏f。CS-30 :16回、評価点3点。片脚立位(R/L):30秒以上/27秒。</p><p> テーピング貼付終了後も膝関節屈曲ROM維持されており、疼痛も軽減傾向。希望されていた正座も辛うじて可能となった。</p><p>【結論】 </p><p>膝OAは退行性疾患であり、山田らは理学療法において、疼痛の原因に対する対症療法的理学療法のみを行い、根本的なメカニカルストレスの増大を改善しなければ、退行性疾患である限り徐々に悪化するため、これまでの対症療法的理学療法に加えて、原因療法的理学療法を並行して行う必要があると述べている。本症例は再生医療により軟骨が再生され、一時的に疼痛は軽減したが根本的なメカニカルストレスが改善されず再度疼痛が出現したと考えられる。メカニカルストレスに対して脛骨内旋運動をテーピングを使用し再教育を行うことで疼痛が軽減し、ROMも改善が得られたと考えられる。再生医療で疼痛が軽減した中でメカニカルストレスに対して適切な理学療法を行うことでより一層効果が得られるのではないかと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき、本人及びご家族には匿名による個人情報の利用について書面を用いて十分に説明し、書面にて同意を得た。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-103_1-H2-103_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713087966208
  • NII論文ID
    130007693558
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-103_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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