視覚誘導性自己運動錯覚の反復で運動関連領野を含む皮質間機能的結合が変化する

  • 金子 文成
    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 湘南慶育病院リハビリテーション部
  • 米田 将基
    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 湘南慶育病院リハビリテーション部 慶應義塾大学大学院医学研究科
  • 岡和田 愛実
    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 湘南慶育病院リハビリテーション部
  • 酒井 克也
    慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 湘南慶育病院リハビリテーション部 首都大学東京大学院人間健康科学研究科

Description

<p>【背景と目的】</p><p> 自己の身体ではない人工的な身体 (コンピュータグラフィクスや事前に記録したヒトの動画など) の運動を視覚刺激として提示することで,被験者は運動しているかのような錯覚を生じる。これを視覚誘導性自己運動錯覚 (KiNvis) という。これまでに我々は,KiNvisを反復することで脳機能マッピングによる運動関連領野の機能的支配の変化,無意識下での自発的運動の誘導,などを示してきた。自発的運動の発現は,KiNvisという認知的現象が運動出力系機能に強い影響を及ぼすことを示しているものの,その背景にある機序は不明である。脳卒中患者に対するKiNvisの実施効果が示されつつあり,反復してKiNvisを付与したときの機序を解明することは重要である。</p><p> これまでの研究から,KiNvisを反復することでKiNvisという認知的現象に関わる神経回路と運動出力系との間の関係について機能的強化などの変化が起こるのではないかとの仮説を立てた。本研究では前述の仮説を探索するため,KiNvisを反復した場合の脳機能結合をfMRIによって解析し,脳機能結合の変化を明らかにすることを目的とした。</p><p>【方法】</p><p> 対象者は健常成人15名 (平均年齢26 ± 5歳,右利き) とした。本研究は右手関節運動の動画によるKiNvisを合計5日間実施し,安静時fMRI検査を介入1日目と5日目のKiNvis直後 (1日目,5日目) に実施した。右手を標的としてKiNvisを誘導し,1日10分間を2セット実施した。安静時fMRIによる計測を1.5TのMRIスキャナーで実施した。fMRIデータの解析は,先行研究から各関心領域 (ROI) に6mmの球形seedを配置した。各ROIから抽出した平均BOLD信号について相関解析を行いその値をFisher Z変換によってガウス分布の値に変換した。変換後のZ-scoreについて,bonferroni法による多重比較を行い,有意水準を5%とした。</p><p>【結果】</p><p> 1日目と5日目において,左右の中心前回 (運動関連領野),左右の一次感覚野,左右の紡錘状回,左紡錘状回と同側補足運動野,背側運動前野,下頭頂小葉,など各ROIの組み合わせで,脳機能結合が強くなっており有意であった。左上頭頂小葉との間で結合が有意に低下しているROIがあった。</p><p>【考察】</p><p> 今回解析したROIは,過去のfMRI研究においてKiNvisとの関連,身体所有感との関連,そして運動主体感との関連が示されてきた領域であった。それらの領域間において,KiNvisの反復前後で機能的結合の強さが異なったと判断される組み合わせが多くあった。我々は過去にKiNvis最中は感覚運動野での活動が非常に少ないことを示したが,今回は左右の感覚運動野において機能的結合が高くなっていることが示された。今回の結果は,KiNvis療法の脳卒中患者への有効性や自発的運動の機序を直接説明できるものではないが,これまでの脳機能解析では示されていない新たな結果が得られた。</p><p>【結論】</p><p> 健康な被験者にKiNvisを反復することで,特定のROIに関してKiNvis後の脳機能結合が変化していることが示された。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は「ヘルシンキ宣言」あるいは「臨床研究に関する倫理指針」に沿って実施され,湘南慶育病院倫理委員会の承認を得た。データ収集,公表では個人情報が特定できないように匿名化を行った。</p>

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088025088
  • NII Article ID
    130007694202
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-123_1
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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