癌悪液質に伴う筋萎縮に対する低強度全身運動が筋タンパク質の合成系経路に与える効果

DOI
  • 田中 稔
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学 神戸大学大学院保健学研究科 大阪保健医療大学
  • 杉本 研
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 藤本 拓
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 謝 可宇
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 安延 由紀子
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 高橋 利匡
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 栗波 仁美
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 赤坂 憲
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学
  • 藤野 英己
    神戸大学大学院保健学研究科
  • 楽木 宏実
    大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p> 癌に伴う悪液質により,全身性に炎症性サイトカインが増加し,急激な筋萎縮が惹起される.癌悪液質に伴う筋萎縮では筋タンパク質合成の低下が一つの要因として関与すると報告されている.一方で,癌悪液質により骨格筋は低酸素状態になると報告されており,低酸素状態の細胞内では代謝センサーであるAMPKが活性化することが報告されている.さらに,AMPKの活性化は筋タンパク質合成経路の一つであるmTOR経路を抑制すると報告されている.そのため骨格筋内の低酸素状態の改善はAMPK活性化の抑制を介して筋タンパク質合成の低下を抑制し、筋萎縮の予防につながると考えられる.それに対して,低強度の全身運動は低酸素状態を改善させることから,癌悪液質に伴う筋萎縮に対して予防効果が期待される.そこで本研究では,癌悪液質に伴う筋萎縮に対する低強度全身運動が筋タンパク質の合成系経路に与える効果について検証した.</p><p>【方法】</p><p> 雄性Wistarラットを用い,全身運動群(Cont+Ex群),癌悪液質群(AH130群),癌悪液質に運動を実施した群(AH130+Ex群)及び非介入群(Cont群)の4群比較を行った.癌悪液質は,腹水肝癌細胞(AH130)を腹腔内投与することによりを惹起した.腹腔内投与翌日よりトレッドミル運動による全身性運動を実施した.運動強度は15 m/分を30min実施し,介入期間は10日間または摂餌量が減少した翌日までとした.介入期間終了後に血清及びヒラメ筋を摘出し,筋量,低酸素状態の指標となるHIF-1α,リン酸化AMPK及び筋タンパク質合成経路の指標となるリン酸化p70S6Kの発現量をWestern blot法で測定した。</p><p>【結果】</p><p> 癌悪液質により,除腹水体重及び筋量が低下した.さらに,血中TNF-αの上昇,ヒラメ筋中のHIF-1α及びリン酸化AMPKの発現が増加し,リン酸化p70S6Kの発現は低下した.一方で,低強度全身運動を実施した群では、癌悪液質によるHIF-1α及びリン酸化AMPKの発現増加とリン酸化p70S6Kの発現低下の抑制がみられた.</p><p>【考察】</p><p> 低強度運動は筋内の血流を改善させることにより,骨格筋内の低酸素状態を改善する.さらに, AMPKの活性化はHIF-1αの発現量に依存すると報告されている.本研究では低強度運動による筋内の血流改善効果が,骨格筋内の低酸素状態を改善し,それに伴うAMPKの活性化を抑制したと考えられる.その結果、筋タンパク質合成の低下が抑制され,癌悪液質に伴う筋萎縮の予防効果を示したものと考える. </p><p>【結論】</p><p> 低強度全身運動は筋タンパク質合成低下を抑制させることにより,癌悪液質に伴う筋萎縮の予防に効果的であることが示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得ている.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), I-50_1-I-50_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088030976
  • NII論文ID
    130007694276
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-50_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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