他動的膝屈曲運動時における大腿直筋内の弾性率と膝伸展受動トルクの関係

説明

<p>【はじめに、目的】大腿直筋(RF)は股関節,膝関節をまたぐ二関節筋であり,損傷頻度の高い筋である.RF損傷のリスク因子として柔軟性低下が挙げられ,RF柔軟性の計測方法として股関節中間位での膝屈曲角度が用いられているが,End feelに関与する膝屈曲に伴う膝伸展受動トルクとRFの筋スティフネスとの関係性は明らかとなっていない.また近年,RFでは解剖学的研究や電気生理学的な検討によって筋内の形態特性や活動特性に部位差が示されており,筋損傷も近位部で頻発することが報告されている.このことからRFの機械特性の検討においても筋内の不均一性を無視できない可能性がある.そこで本研究では筋スティフネスの指標であり,筋伸長によって生じる受動張力と高い相関関係を示す筋弾性を用いて,他動的膝屈曲運動時におけるRFの近位部・中央部・遠位部の弾性率と膝伸展受動トルクとの関係性を明らかにすることを目的とした.</p><p>【方法】対象は若年健常男性8名(年齢20.8±0.9歳,身長171.6±6.5cm,体重62.5±9.0kg)とし,利き足のRFを被験筋とした.弾性計測部位はRFの起始部と停止部(下前腸骨棘から膝蓋骨上縁)を結んだ直線の近位から,それぞれ25%(近位部),50%(中央部),75%(遠位部)の筋束領域と規定した.RFの縦断面における筋弾性率は,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィ機能により計測したせん断波伝搬速度から算出した.他動膝屈曲運動は股伸展0°,膝屈曲0°から膝屈曲最終域まで角速度2°/secで実施し、その区間の膝伸展受動トルク,RF弾性率を記録した.膝伸展トルクは重力の影響を除くため,先行研究(阿江ら.1992)を用いて下腿質量を体重から推定し,三角関数を用いて補正した.統計処理は膝屈曲に伴う3部位(近位部・中央部・遠位部)の筋弾性率および膝伸展受動トルクの最小値を0,最大値を1とし,膝屈曲0°から10°ごとに弾性とトルクの相対値を算出し,それらの関係性を各被験者でPearsonの積率相関係数を用いて分析を行った.解析には IBM SPSS Statistics ver. 22.0 を使用し,有意水準は5%とした.</p><p>【結果】相関分析の結果,近位部(0.932<R<0.988),中央部(0.813<R<0.996)および遠位部(0.747<R<0.939)であり,対象者全てにおいてRF弾性率と膝伸展トルクとの間に有意な正の相関関係を認めた(p < 0.01).</p><p>【考察】他動運動に伴う筋の弾性変化は受動張力を反映するため,今回の結果から膝伸展受動トルクの増大はRFの受動張力に起因している可能性が示唆された.また,近位部において他の2部位よりも高い相関関係を示す例が多く,股中間位での膝伸展受動トルクはRF近位部の発揮張力が強く影響しているかもしれない.</p><p>【結論】股関節中間位における膝屈曲に伴う膝伸展受動トルクは,筋内の部位に依存せず筋弾性と深く関連し,RFの受動張力を反映する可能性がある.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た上で実施した(承認番号29-2-37).また,ヘルシンキ宣言に従い,被験者のプライバシーと人権の保護に留意し実験を実施した.</p><p> 被験者には事前に研究目的,測定内容及び研究成果を学会や論文などにて報告することを研究実施者が口頭で説明し,書面にて同意を得た.研究実施者は,記名した同意書の写しを被験者に交付し,同意書の原本は当該機関で保管することとした.また,一旦同意した場合でも,被験者に不利益を与えることなく同意を取り消すことができることを説明した.ただし,学会や論文などですでに発表済みのデータについては,同意の撤回が困難であることについて事前に説明した.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), I-99_1-I-99_1, 2019

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088038016
  • NII論文ID
    130007694345
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.i-99_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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