産褥早期の周産期心筋症に対して、心臓リハビリテーションと産後の生活指導を施行した一例

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抄録

<p>【症例紹介】</p><p>周産期心筋症(以下PPCM)とは、心臓疾患の既往のない女性が妊娠・出産の際に突然心機能が低下して心不全を発症する疾患である。国内における発症は約2万出産に1人である。その予後に関しては、左室機能が改善する率が7~50%、死亡率が4~80%と報告ごとに大きく異なるが、重症例に関しては致死的であると報告されている。病態は拡張型心筋症(以下DCM)に類似しているが、PPCMによるうっ血性心不全の心臓リハビリテーション(以下心リハ)の報告は少ない。今回産後にPPCMを発症した症例に対し、心リハを含めた理学療法を実施する機会を得たため、以下に報告する。</p><p>31歳、女性。X年Y月に第5子を出産。産後2週頃より食欲低下と呼吸苦が出現。産後1ヶ月後に当院を受診してPPCMによるうっ血性心不全と診断され入院となる。入院時はNYHAⅢ/CS2で、心臓超音波検査にて左室駆出率(以下LVEF)は15%、血液検査にて脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下BNP)が551.6pg/mlであった。ラシックスによる利尿と酸素療法にて心不全兆候は軽快。心保護のためカルベジロールとペリンドプリルを導入。心リハも実施し、入院してから第18病日目に自宅退院となった。</p><p>【評価とリーズニング】</p><p>第4病日目より心リハを開始し、心不全兆候の軽快とともに徐々に安静度を拡大し、第9病日目に病棟内フリー、第10病日に院内フリーとなった。第15病日目より持続的運動による有酸素運動を開始し、運動負荷は修正Borg scaleの3~4と安静時心拍数+10~20bpm程度を目安とした。産後の腰痛や尿失禁、便秘などの症状は認めなかった。また、入院中より、本症例だけでなく家族にも退院後の自主トレーニングと禁煙、塩分を控えた食生活、水分・体重管理、動作時の息こらえなどを指導した。動作指導に関しては、児を抱く姿勢などの育児動作で心負荷が増加しないかを併せて評価して指導した。退院時には日常生活動作は自立していたが、児の体重を想定した重さを持ちながら移動する際に心拍数が安静時90bpm→ 120bpmまで著明な上昇を認めていたため、児を抱いたままの家事や外出は行わないよう指導した。</p><p>【介入内容および結果】</p><p> 退院後は自宅での自主トレーニングを継続し、家族の協力を得ながら服薬管理や禁煙、食生活管理も遵守できていた。さらに週1回の外来心リハへ移行してレジスタンストレーニングと有酸素運動を継続し、退院後1ヶ月には育児動作による心拍数の著明な上昇は認めず、児を抱いたままの移動が可能となった。有酸素運動は退院時の心肺運動負荷試験の結果を考慮して持続的運動を施行していたが、心拍数の著明な上昇や自覚的運動強度の上昇を認めないことなどから、高強度インターバルトレーニング(以下HIIT)に変更した。運動負荷は、高強度をpeak VO2の80~90%で1分、低強度をpeak VO2の40~50%で2分の計8セットとした。その結果、peak VO2(退院時→退院後4ヶ月:13.8 mL/kg/min →17.9mL/kg/min)は改善を認め、LVEFは45%、BNPは5.80pg/mlとなった。外来心リハ中は産後の腰痛や尿もれなどの出現を認めず、適宜心負荷に合わせた育児動作指導を実施した。</p><p>【結論】</p><p>PPCMはDCMの病態と類似しており、DCMの運動療法は重症度・合併症・治療薬により個別に配慮を要し、負荷量に留意することが重要である。先行研究ではDCMに対してHIITを施行したことで運動耐容能が改善すると報告されており、本症例は自覚的運動強度の上昇を認めないことを含め、HIITが適応可能と考え、HIITを4か月間施行し、運動耐容能や心機能が改善したと考えられる。また、産後6~8週は母体の体重や心血管系の変化が著しい時期であるため、服薬による尿量の増加により尿もれが生じていないかなどの産後特有の症状を評価することも必要であった。さらに、産後は児を抱いたままの移動や夜間の授乳など心負荷が増加する生活が想定されるため、実際の動作の姿勢やバイタルサインの確認、家族への理解を深める生活指導が重要であったと考える。これらを入院中から継続して実施したことで、心不全の増悪・再発防止に繋がったと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本発表はヘルシンキ宣言を順守し、対象者に本発表の趣旨を説明し同意を得た。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-150_1-H2-150_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088349312
  • NII論文ID
    130007693646
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-150_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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