転倒予測評価と認知機能

髙橋 佑輔, 福井 直樹

doi:10.14900/cjpt.46s1.i-135_1

【はじめに、目的】当院では転倒予測評価でFour square step test（以下FSST）、Timed “up & Go” test（以下TUG）を使用するが、FSSTとTUGの結果が時折解離し歩行自立度の判定に困惑する。要因として身体機能以外に認知機能の影響を考えたが、私が渉猟する限り認知機能が各評価に与える影響の報告は見当たらない。しかし転倒の危険因子の一つとして認知機能低下も報告されており、転倒とは不可分の関係である。そこで今回Diteらの報告で感度、特異度ともに高いFSST、TUGとMini Mental State Examination（以下MMSE）の総点数や下位項目の関係性を検証する。【方法】対象はH29.6.15～H29.9.15の間にA病院入院中に理学療法を実施し、独歩又は杖歩行が介助無く可能でTUG、FSSTが完遂可能な70名とした。対象者にMMSE、FSST、TUGを実施した。MMSE総点数と各転倒予測評価の相関を求め、相関を認めた転倒予測評価はMMSE下位項目と相関を求めた。統計処理はMMSE、FSST、TUGに正規性の検定を行い、MMSEと転倒予測評価の相関はPearsonの積率相関係数又はSpearman順位相関係数を使用した。MMSE下位項目と転倒予測評価には重回帰分析を行った。統計解析はSPSS Statistics Version21を使用し、有意水準を5%未満とした。【結果】MMSEは平均23.87±5.39点、FSSTは平均15.13±5.43秒、TUGは平均12.43±4.91秒で、MMSE、FSST、TUGすべてに正規性を認めなかった。FSSTとMMSEは相関係数r＝0.409で相関を認め、TUGとMMSEは有意な相関は認めなかった。FSSTとMMSE下位項目では計算のみ有意に関係性を示した。【考察】覚醒、意欲、注意が伴わないと　MMSE全体の点数が低下する。MMSE総点数とFSSTの相関を認めたことより、覚醒、意欲、注意の低下が関与すると考えるが、本研究では注意が大きく関与することが明らかになった。MMSE下位項目の計算は作動記憶を対象とした項目であり、FSSTとの相関は作動記憶の関与が大きいと考える。これら注意、作動記憶は個別の問題ではなく、神経心理ピラミッドに基づくと密接に関与しており、注意の上に情報処理（作動記憶）が成り立つ。情報処理やそこに至るまでの過程でエラーが出るとFSSTの成績を低下させると考える。具体的にはFSSTは「跨ぐ順番を覚える・跨ぎ動作時のバランスを保つ」といった同時処理を行う必要がありTUGと比べ注意や作動記憶を必要とする課題であるが、TUGは比較的単純な課題で同時処理をあまり必要としないため相関を認めなかったと考える。【結論】FSSTはTUGに比べ認知機能の影響を受け、特に注意機能や作動記憶の低下により成績が低下することが示唆された。認知機能と転倒は不可分の関係性であり、FSSTはより認知機能低下者の転倒リスク検出に有用な可能性がある。【倫理的配慮，説明と同意】本研究は公立那賀病院倫理委員会の承認（承認番号：34）を得て行っている。対象者に対しては研究内容を詳しく説明した。個人が特定されないこと、自由意思による同意を得た上での協力であること、研究に参加しない場合でも、受けるべき権利を失うことは無いことを本人へ口頭で詳しく説明を行った。本人の意思決定力が低下していると判断する者へは同様の内容を家人へ詳しく説明を行った。

転倒予測評価と認知機能

Bibliographic Information

Description

Journal

Keywords

Details 詳細情報について

Export

Report a problem