左右方向の床外乱に対する力学的バランス回復方略の検討
抄録
<p>【はじめに,目的】左右方向の外乱に対して早期にバランスを回復することは,転倒を防ぐために重要である。しかし,バランス回復に寄与する力学的方略の詳細は明らかではない。左右方向の床外乱に対してステップせずにバランスを回復する際,前額面内の全身角運動量の減少には下肢の関節トルク発揮による床の押し返しが関与し,その作用が不十分な場合は他の身体部位を用いる代償運動が起こると推測される。この推察の妥当性を検証するため,本研究では左右方向の床外乱に対する初期姿勢反応の力学的特性を測定した。</p><p>【方法】実験参加者は健常若齢者20名であった。参加者は転倒防止用のハーネスを着用し,2枚の床反力計を載せた床外乱装置の上に立ち,左右外乱に対して転倒しないよう反応した。外乱強度は外乱装置の加速度を0及び大中小(5.49-17.0m/s2)の3段階に設定し,各方向及び外乱強度を3試行ずつランダムに実施した。外乱装置での床外乱への対処の様子を,12台の三次元動作解析カメラ及び床反力計で記録した。算出項目は前額面内の角運動量と関節トルク及び床反力水平成分とした。データ解析は床左外乱高速条件の試行で行った。転倒側の脚による床の押し返しのピーク(床反力水平成分ピーク値)よりも全身の角運動量ピークが早い試行(早期化試行)と遅い試行(遅延化試行)に群分けし,床反力水平成分の左右ピーク間での関節トルクを群間で比較した。統計学的有意水準は5%とし,統計ソフトはR version 2.8.1を使用した。</p><p>【結果】全60試行のうち計測上の問題で分析できなかった5試行を除く55試行を分析した。内訳は早期化試行49試行,遅延化試行6試行であった。床反力水平成分のうち転倒方向成分の積分値は遅延化試行で有意に小さな値であった。また左右の床反力が切り替わる区間における関節トルクは,早期化試行に比べて遅延化試行で体幹の右傾トルクおよび肩関節トルク(右肩内転,左肩外転)のピーク値が有意に大きく,足関節トルク(左右回外)のピーク値が有意に小さい結果となった。股関節トルクに両群間で有意な差は認められなかった。</p><p>【考察】左右床外乱に対する前額面内の全身角運動量の減少には,下肢関節トルク発揮による床の押し返しが関与し,その作用が不十分な場合は他の身体部位を用いる代償運動が生じるとした推測と合致する結果となった。早期化試行は,主に足関節のトルク発揮により床反力を適切に作用させることでバランス回復を行っていた。遅延化試行では,足関節トルク発揮が不十分なため早期に全身の角運動量を減少させることができず,代償戦略として上半身の関節トルク発揮によって角運動量を減少させていることを示唆した。</p><p>【結論】左右方向の床外乱においてステップすることなく早期にバランス回復するためには足関節トルク発揮が重要であり,トルク発揮が不十分な場合,上半身を使って制御することでバランス回復を行っていることを示唆した。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言に基づき,参加者に,研究の目的,方法,心身への影響,参加中止の自由について説明を行い,実験参加者本人から研究内容への同意と実験参加への承諾を紙面にて得た。また,本研究の手続きは,首都大学東京研究安全倫理委員会により審査を受け,承認された(承認番号29-89)。</p>
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 46S1 (0), I-67_2-I-67_2, 2019
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390845713088402560
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- NII論文ID
- 130007694271
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可