SU(N)ハバードモデルを光格子中の冷却原子で実現する(最近の研究から)

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タイトル別名
  • Realization of the SU(N) Hubbard Model in Ultracold Atoms in an Optical Lattice(Research)
  • 最近の研究から SU(N)ハバードモデルを光格子中の冷却原子で実現する
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ SU(N)ハバードモデル オ ヒカリ ゴウシ チュウ ノ レイキャク ゲンシ デ ジツゲン スル

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抄録

強く相互作用する固体中の電子は,磁性や超伝導など多体系に特有の多彩な物理現象を生み出し,その理解のために膨大な努力が費やされてきた.その中で,ハバードモデルと呼ばれる理論モデルは相関電子系を記述する最もシンプルなモデルとして広く研究されている.モデルには隣接格子点へ電子が飛び移るときの運動エネルギーの利得t,同じ格子点に電子が2つ存在するときの相互作用Uの2つのパラメータのみが含まれている.異なる格子点間の相互作用や複数の電子軌道の存在といった多くの要素が無視されており,ハバードモデルは現実の物性の定量的な予言には単純すぎるが,金属-絶縁体転移からd波超伝導まで重要な物理現象のエッセンスを含んでおり,このモデルの研究が物性のより深い理解につながると信じられている.しかしながら,そのシンプルさにもかかわらずハバードモデルを解くことは非常に難しく,2次元以上では厳密解が得られていない.数値計算についても,厳密対角化は20サイト前後が限界であり,2次元以上では近似的な計算法に頼らざるを得ないのが現状である.一方で,レーザー冷却によって極低温に冷却された原子集団をレーザー光の定在波がつくる周期ポテンシャル(光格子)に導入した系が,非常に良い精度でハバードモデルを再現することが明らかになった.これにより,ハバードモデルの含む未知の物理を実験の側から明らかにする「量子シミュレーション」の考え方が現実的なものとなった.ハバードモデルの中でも,スピン1/2の電子を記述する通常のSU(2)ハバードモデルではなく,N(>2)成分のカラー自由度を持つ粒子を記述するSU(N)ハバードモデルは,Nの値に応じて基底状態の性質が大きく異なることが予想されている.例えば,2次元以上のSU(2)モデルではhalf-filling(1サイトにN/2個の粒子)における基底状態として反強磁性の長距離秩序が予想されているが,Nの大きいモデルでは長距離秩序が失われ,より乱雑な状態が好まれる傾向にある.また,単にSU(2)モデルの数学的な拡張というだけでなく,軌道縮退がある系(の対称性の高い場合)を記述する点でも一般のSU(N)モデルを研究する意義は大きい.通常の物質ではSU(N)対称性は近似的にしか成り立たないことがほとんどであるが,光格子に特定の原子種を用いればこの対称性を非常に精確に実現できることが示され,SU(N)ハバードモデルの実験的な研究の可能性が開けた.ハバードモデルで説明される物理現象の代表例として金属-モット絶縁体転移が挙げられる.モット絶縁体とは,電子間の斥力によって電気伝導が妨げられることに由来する絶縁体の一種で,一般のバンド絶縁体と異なりスピン自由度が生き残るために多様な磁気的現象の舞台となる.ここでは,イッテルビウム原子を用いたSU(6)ハバードモデルの実現とモット絶縁体の形成,SU(N)ハバードモデルの熱力学性質のN依存性を報告する.特に,スピン自由度が担うエントロピーが,Nの大きな系について効果的な断熱冷却(ポメランチュク冷却)の手段を提供することと,その冷却原子系における意義について議論する.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69 (6), 381-385, 2014-06-05

    一般社団法人 日本物理学会

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