実際のエコー操作のデモンストレーションとその評価のポイント

DOI
  • 稲垣 有佐
    奈良県立医科大学 寄附講座人工関節・骨軟骨再生医学講座

抄録

<p> 【はじめに】血友病の運動器合併症である,関節内出血,血友病性滑膜炎,血友病性関節症は連続的かつ併存しうる病態である。それら総論および画像診断,とくに関節エコーについて自験例も含めて概説する。</p><p> </p><p> 【血友病性関節症】骨同士の連結部位である関節は線維性の関節包で包まれており,その内面は膜状組織の滑膜で裏打ちされている。この滑膜性関節包内に出血がおこることが関節内出血であり,重症血友病患者では歩行開始頃より足関節などの下肢荷重関節を中心に発生する。凝固因子補充等による止血管理が不十分な場合,関節内出血は軽微な原因でも発生しうる。関節内出血による急性期の一般症状としては関節の腫れ・疼痛・熱感・可動域制限などがあげられる。繰り返す関節内出血において,赤血球ヘモグロビン由来の鉄成分をマクロファージが貪食し,炎症性のサイトカインを放出し血友病性滑膜炎となる。血友病性滑膜炎では,血管の新生・血流量増加により滑膜表面が充血するため,その破綻により容易に関節内出血が起こりやすくなる。このように易出血状態となった特定の関節は「標的関節」と呼ばれ,治療介入の必要性がある。滑膜炎が遷延すると,細胞外基質の分解が進み,関節軟骨や軟骨下骨が破壊され,血友病性関節症となる。関節の疼痛により活動性が低下し,筋力の低下・関節可動域の減少をきたすことより,正常な関節運動が障害され,関節のさらなる破壊へとつながる。</p><p> </p><p> 【血友病性関節症の画像診断】血友病性関節症の初期は,単純X線では有意な所見を認めないが,病態の進行により骨の萎縮性変化や骨端の過成長,さらに軟骨下骨嚢胞の形成,関節裂隙の狭少化等を認める。軟骨は単純X線透過性であるため,先述の如く関節裂隙の狭少化は関節軟骨の減少を反映している。血友病性関節症は単純X線で著しい所見を認める前に治療を行うことが重症であり,MRI(Magnetic Resonance Imaging)や関節エコーなどの高感度画像診断の活用が必要である。MRIや関節エコーでは単純X線透過性で評価が困難である軟骨や滑膜などの評価が可能である。MRIは軟部組織の評価に優れた大変有用な検査ではあるが,一度に多関節の評価は困難かつ高価であり,小児では鎮静を要する。関節エコーは,近年関節リウマチ診療やスポーツ医学の領域では必須の検査となってきており,血友病性関節症においてもMRIとの相関を認める報告が多数ある。</p><p> </p><p> 【血友病性関節症に対する関節エコー評価のポイント】エコーは物質境界面で超音波が反射することを利用し画像を生成する。組成が比較的均一な関節軟骨や,通常の関節液は物質境界面で超音波が反射しにくく,無から低エコーとなる。一方骨表面は隣接する軟部組織との境界により高エコーとして表示される。そのため骨表面の高エコーは関節の観察にあたり良好なランドマークとなる。通常の関節では,滑膜性関節包内には無エコーな少量の関節液を認めるのみである。一方,血友病性関節症では同部位に低から高エコー様々な異常組織を認める。エコーのプローブで関節表面を圧迫し,移動する液体物であれば,出血や関節液貯留が疑われる。関節内出血は,血球成分や凝血塊を含んでいるため,物質境界面で超音波が反射し高エコーとなり,プローブの圧迫により移動する様子は吹雪様となる。一方,滑膜増殖はプローブの圧迫による移動性が乏しく,含有する水分量が多いと低エコーとなり繊維化が強いと高エコーとなる。関節症が進行すると本来スムーズである軟骨や骨表面に変性による凹凸が生じるため,エコーでも骨軟骨病変の評価が可能である。本発表ではイタリアのMartinoliらが提唱している日常診療でも使用可能な一関節あたり数分程度で施行可能なプロトコールを中心に御紹介する。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H1-80-H1-80, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390845713088707968
  • NII論文ID
    130007693537
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h1-80
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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