インフレーション宇宙の解明へ向けて――これまでと今後の宇宙観測

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タイトル別名
  • Towards Understanding the Inflationary Universe――Perspectives from Current and Future Cosmological Observations
  • インフレーション ウチュウ ノ カイメイ エ ムケテ : コレマデ ト コンゴ ノ ウチュウ カンソク

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抄録

<p>宇宙誕生の直後,宇宙はインフレーションと呼ばれる急激な加速膨張の時期を経験したと考えられている.このインフレーションは,元来標準ビッグバン宇宙論における諸問題(地平線問題,平坦性問題など)を解決するために提案されたが,しかしそれだけでなく,宇宙の大規模構造や宇宙背景放射の揺らぎなどの宇宙の構造の起源(原始密度揺らぎ)を与えることができる.インフレーションはほぼスケール不変で,ほぼガウス的な原始密度揺らぎを生成し,さらには,原始重力波を生成すると予言されている.現在のところ,インフレーション期に生成されたと考えられる原始重力波は検出されていないが,密度揺らぎに対するインフレーション理論の予言は現在の宇宙観測データと基本的に整合しており,インフレーション理論の基本的な枠組みは正しいと考えられている.</p><p>しかしながら,インフレーションがどのように起こったか,その実際のメカニズムについては未だ理解されていない.インフレーションモデルについては様々なものが提案されており,そのモデルによって,上記で述べた原始密度揺らぎ,および原始重力波の性質が異なるため,これらの性質を宇宙観測で精密に測定することにより,インフレーションの実際のメカニズムを解明できると考えられる.</p><p>現在,宇宙背景放射の揺らぎを精密に測定したプランク衛星などの宇宙観測データにより,上記の原始密度揺らぎ,原始重力波がみたすべき性質が分かってきているが,インフレーションの具体的なモデルを絞りこめるには至っていない.しかし,今後の宇宙観測により,その性質の詳細がより明らかになるだろう.特に,原始重力波の検出,密度揺らぎの小スケールでの精密観測,密度揺らぎの非ガウス性の精密測定などが期待されている.</p><p>原始重力波は宇宙背景放射のBモード偏光の観測で検出されることが期待されており,もし検出されれば,インフレーションが起こっているエネルギースケールが分かり,インフレーションの背後にある理論に対して大きな示唆を与える.</p><p>また,今後の宇宙背景放射のスペクトル歪みや中性水素21 cm線の観測により,現在の宇宙背景放射で探査しているスケールより,さらに小さなスケールの密度揺らぎが観測できると期待される.幅広いスケールでの詳細な密度揺らぎの観測は,インフレーションのダイナミクスに対して大きな情報を与える.</p><p>密度揺らぎの非ガウス性は,特にインフレーションモデルの枠組みに対して大きな示唆を与える.例えば,単一場インフレーションモデルは非常にガウス的に近い原始密度揺らぎを生成するが,複数場モデルでは,一般に単一場モデルより非ガウス的な揺らぎを生成することが知られており,非ガウス性の情報はモデルの枠組みの峻別を可能にする.将来の銀河サーベイ,21 cm線の観測などから,現在の宇宙背景放射の揺らぎの観測よりも詳細に原始密度揺らぎの非ガウス性の情報が得られると考えられている.</p><p>これらの将来観測によって,インフレーションのメカニズムが明らかにされ,インフレーション宇宙の全貌解明に向けて前進すると期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 74 (7), 463-471, 2019-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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