ヤブイヌに観察される倒立動作:直立二足歩行能獲得に対する進化的意義

書誌事項

タイトル別名
  • Handstand motion observed in female bush-dog and its evolutionary implications for the acquisition of the orthograde bipedal walking

説明

<p>【はじめに】霊長類を含め哺乳動物には野生環境下で自発的な二足姿勢或いは短時間の二足歩行性を示すものが珍しくはない。しかしそれとは逆に手で体重を支えての倒立動作を示すものは数少ない。その様な倒立動作の成立を考察する事は、静的な二足立位或いは短時間の二足歩行性が如何にして獲得され、またその進化的意義は何か、を考察する上でヒントを与える可能性がある。今回、イヌ科の動物、ヤブイヌSpeothos venaticus 雌個体の倒立動作を観察し、若干の考察を試みた。【材料と方法】京都市動物園にて飼育展示されるヤブイヌ雌成体2頭をHD、60 frames /sにてビデオ撮影した。撮影は2015年7月に行われた。動画をコマ割りし倒立時の運動性を解析した。【観察】藪を擬して作られた飼育環境の下、ヤブイヌはその中の小道を頻繁に歩き回る。雌のみが、垂直に立てられた丸太に対し後ろ足で乗り掛かり、逆立ちしたままの姿勢で排尿を行う。体幹は鉛直にならず、水平面に対して最大で65度程度の角度である。外見のみでの観察であるが、肩甲骨に対する上腕骨の伸展はブラキエーターやヒトが前肢を挙上する時の角度には全く達しない。【考察】より高い位置に排尿すれば、特に密林環境では地面に排尿する場合に比較して、匂いが残ると同時に拡散し易く、マーキングとしては効率が良い事は容易に理解できる。四足歩行性を基本とする動物が、採食、威嚇、偵察、餌の運搬或いは道具使用時の手の利用等の為に、静止立位或いは短時間の二足歩行を示すことが知られる。しかし移動運動性としては四足歩行性を飽くまで維持し、その様な立位姿勢や立位運動性が二足歩行性にどの様にして切り替わり得るのかの説得性あるシナリオの提出が難しい。ヤブイヌの排尿動作は、重力方向が逆であるだけで、進化的には四足から二足への移動運動性の変遷には繋がらない「用向き」の為の立位姿勢或いは立位動作が存在することを明確に例示するものと考えた。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390846609814992896
  • NII論文ID
    130007813501
  • DOI
    10.14907/primate.35.0_51_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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