与論島北東沖の礁嶺地形の高精細な地図化と地殻変動の検討

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  • Detailed Mapping of Modern Reef Crest Topography

抄録

<p>1.はじめに</p><p> サンゴ礁の地形は生物の作る地形であり,環境変化と密接に関連して形成されるため,サンゴ礁地形の発達と完新世の環境変化が熱心に議論されてきた(Yonekura et al.,1994など)。一方,海岸付近に分布する離水サンゴ礁や離水ノッチなどの離水地形からは,相対的な海水準の変動(武永, 1972;太田ほか, 1978など)や完新世の地殻変動の地域差が検討されてきた(例えば,中川,1967;中田ほか, 1978;太田ほか,1995など)。しかし,変動量が微小な場合や,離水地形の不明瞭な場合は検討が難しく,変動地形学的な検討が十分になされていない地域も少なくない。また,現生サンゴ礁の地殻変動を捉える研究がマイクロアトールの成長断面の分析によって精密に議論される場合もある(Sieh et al., 1999など)が,同一のサンゴ礁内での地殻変動の地理的違いを議論するのは容易でない。</p><p> そこで,本研究では,現生サンゴ礁のうち,外縁で微高地をなす礁嶺の地形に焦点を絞り,その高度分布から地殻変動の地域差を検討することを目的とした。礁嶺地形は,低潮位を上限として形成された(Yamano et al., 2019など)ことから,現在の礁嶺の高度分布は,礁嶺地形の形成後における相対的な海水準の低下やその地域差を示していると考えられる。</p><p> 本研究では,大規模なサンゴ礁の発達する南西諸島中部の与論島北東岸に発達する裾礁を対象に,干潮時に地表に出現する礁嶺地形を詳細に地図化し,その高度分布を明らかにし,与論島内の離水サンゴ礁地形と比較検討した。その結果,大潮の干潮時には,与論東北東岸の礁嶺地形は,少なくとも長さ4.5 kmにわたって離水すること,礁嶺の高度分布は均一でなく,そのうち中央よりやや北西で高度が高く両側に向かって高度を減じることが解った。さらに,その傾動の傾向は与論島内の離水サンゴ礁に見られる傾動の傾向と調和的であることがわかった。</p><p>2.対象地域の地形</p><p> 与論島の周りには,島を取り巻くように裾礁が発達しており,特に島の北東側は幅約200 m,長さ約6.3 kmの礁嶺地形が認められる。これらの礁嶺の形成は,5,260年前から3,230年前にかけて形成され,3,230年前以降, 礁嶺は縁溝-縁脚系を形成しつつ海側にも幅を広げたとされる(Yonekura et al., 1994)。</p><p>3.礁嶺地形の地図化 </p><p> 水中の地形計測はマルチビーム測深機など高価な機器を必要としたり,浅海の写真測量の場合には水の屈折率の補正が必要となる。さらに,波打ち際に近い礁嶺地形を水中で計測することや,波による乱反射していない写真画像を取得することは容易でない。</p><p> そこで,本研究では,干潮時の礁嶺地形を無人航空機(UAV)により空撮し,SfM-MVS解析による地形モデル作成を試みた。研究対象とした礁嶺地形は,与論島の海岸からおよそ200 mから1 km離れており,アクセスが容易でないうえに,礁嶺が地表に出現する大潮干潮時のわずかな時間に撮影する必要がある。したがって,本研究では,礁嶺における地上基準点(GCP)の計測を不要とするために,UAV本体にRTK-GNSS受信機を搭載したDJI社製のPhantom 4 RTKを使用し,海岸から離陸して自動航行で撮影した。</p><p> 空撮写真の解析の結果,解像度2.8 cmのオルソ画像及び解像度5.6 cmの数値表層モデル(DSM)が作成された。オルソ画像からは藻類の分布を明瞭に読み取ることができるほか,DSMにより精密な地形の計測が可能となった。</p><p>4.現生サンゴ礁地形の変形</p><p> DSMを用いて礁嶺の縦断面形を計測すると,中央よりやや北西で高度が最も高いことが解った。干潮後の潮位上昇過程で定性的には理解されていたが,平均海面下の様子を表した詳細な地形図で明確に示すことができた。島の北東部分に認められる海成段丘には北北東—南南西を背斜軸とする変形が報告されており(Goto et al., 2018),現生サンゴ礁の変形と調和的であることが明らかとなった。完新世にも同様の変形が継続してきたと考えられる。百合ヶ浜やサンゴ礁の発達にも影響があったものと考えられ,今後の検討を期待したい。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390846609819218048
  • NII論文ID
    130007822174
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_236
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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