Waldo Tobler’s Legacy in Cartography and Geographic Information Science and Its Inheritance

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  • 地図学・地理情報科学におけるWaldo Toblerの遺産とその継承

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<p>第29回国際地図学会議(ICC2019)東京大会では,三つの特別セッションが設けられたが,その一つは,2018年2月に亡くなったカリフォルニア大学サンタバーバラ校のWaldo Tobler名誉教授を追悼する集会であった.これには,ESRI社のAileen Buckley, ICA会長Menno-Jan Kraak, ICA副会長でチューリヒ大学教授Sara Fabrikant, ICAの次期会長で元米国統計局のTimothy Trainor, ミシガン大学時代のToblerの弟子でオハイオ州立大名誉教授Harold Moelleringの4名が登壇し,Toblerの業績とその意義を語るパネルディスカッション形式で進められた.</p><p></p><p>Toblerの業績については,すでにいくつかの著書でまとまった紹介がなされており,地図学・地理情報科学分野の雑誌には追悼記事が掲載されている.また,USCBのウェブサイトでは彼の業績一覧が閲覧できる.本稿では,これらの資料を手がかりにして,地図学・地理情報科学におけるToblerの足跡をたどりつつ,当該分野で継承すべき遺産とは何かを考えてみたい.</p><p></p><p>地理学における計量革命の拠点となったワシントン大学に入学したToblerは,1961年に「地理的空間の地図変換」と題した論文で博士の学位を取得した.その内容は,時間や費用など様々な距離測度を用いた地図の変換方法や,地図投影法を微分方程式で定式化してその応用の仕方を述べたものであった.その後のToblerは,新たな地図投影法やカルトグラムの技法の開発によって地図学分野に広く知られるようになるが,その延長で考案されたのが地図の歪みを視覚化して計測する2次元回帰分析である.その手法は,古地図の計測のほか,古代遺跡の集落パターン分析などに応用されており,使用されたコンピュータプログラムの多くが公開されている.</p><p></p><p>一連の成果を生み出したミシガン大学時代のToblerは,解析地図学という講義を開講していた.1976年の論文によると,それは地図作成過程に隠れた理論的・数理的規則を明らかにする分野として構想されていたことがわかる.解析地図学のアイディアには,地理情報科学の理論的基礎となるものが多く含まれており,その後はMoelleringらによって継承されてGISの設計や地理空間データの標準化などにもつながっている.また,Toblerが最初に発表した1959年の論文は,コンピュータによる地図作成に関する先駆的業績でもあった.その続編にあたる1965年の論文では,より具体的な自動化のための課題の一つとして,地図データの符号化(ジオコーディング)が挙げられていた.ジオコーディングの様々な方法を検討する中で,Peter Gouldと一緒に行った緯度・経度を宛名にした葉書を送る“実験“は,目的に合わせた地理参照の使い分けのための教訓を提供している.</p><p></p><p>地理学分野でToblerは,計量革命のパイオニアの一人として知られているが,彼の名声を高めたのは,1970年の論文で言及した「地理学第一法則」によってである.デトロイトの人口分布シミュレーションの結果を動画地図で表現することをテーマにしたその論文中に登場する「全てのものは他の全てのものと関連するが,近いものほど強く関連し合う」という警句は,空間的自己相関という空間データ特有の性質に地理学者の目を向けさせることになる.そして標本の独立性という統計的手法の前提に反するその性質は,GISの発達とともに,空間データ独自の分析手法(ローカルな自己相関統計や地理的加重回帰分析)の開発につながっている.</p><p></p><p>地理学第一法則はまた,空間内挿や平滑化によって離散的な空間データから連続的なデータを作り出す根拠を与えている.それはToblerが手がけた人口統計の研究の中で,人口移動の流れをベクトル場として視覚的に表現する方法や,世界の人口分布を詳細なグリッド単位で推計する全球人口プロジェクトなどにつながっている.このように,Toblerの考案した手法はデータ形式さえ合えばどんな対象にも応用できる汎用性の高いものであったが,とくに彼の関心は人文社会現象への数理的手法の応用に向けられていた.</p><p></p><p>以上のように,Toblerの仕事は地図学,地理情報科学,地理学にまたがる数多くの遺産をもたらしている.地図学から出発しながら,コンピュータ時代を先取りしてGISの理論的基礎を築くとともに,地理学における理論面での貢献も計り知れないものがある.数理的手法に依拠した彼の研究スタイルは終始一貫しており,それによって生み出された独創的な研究成果は,技術の進歩や社会の変化を超越した普遍性をもっているといえる.</p>

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390846609819367680
  • NII Article ID
    130007822074
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_171
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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