北アルプス・白馬大雪渓周辺における岩盤斜面の地形変化

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  • Surface changes of rock slopes in the Shirouma-Daisekkei Valley, the Northern Japanese Alps

抄録

<p>1.はじめに </p><p> 北アルプス,後立山連峰に位置する白馬岳と杓子岳の両岩壁に挟まれた白馬大雪渓では,岩壁からの落石や崩落により登山事故が起きている(小森, 2006).2005年8月には杓子岳北面の岩壁で崩落が生じ,2名の死傷者がでた.2008年8月には大雪渓の左岸斜面で崩落が発生し,登山者2名が犠牲になっている(苅谷ほか,2008).最近では,2018年,2019年に白馬岳側で岩盤崩落が立て続けに発生し,これらの崩落によるケガ人は出なかったものの,大雪渓の二号雪渓合流部より下流の左岸側は岩屑に覆われた.高山帯の岩壁は踏査が困難な場所が多く,崩落現象を連続モニタリングした研究は少ない.森林限界以上の高山帯について,南アルプスや北アルプス南部では,地形変化や土砂収支の実態を明かにしようとする試みや(松岡ほか,2013),不安定斜面の挙動や気象要素との関係などが研究されてきたが(岩船,1996;西井・松岡,2012),北アルプス北部の豪雪地帯での研究はほとんどない.本研究では,岩壁からの礫生産が活発で事故が多発する北アルプス・白馬大雪渓周辺の岩盤斜面の崩落箇所を抽出するとともに,その地形場の特徴を複数年の連続モニタリングにより明らかにすることを試みた.</p><p>2.研究方法</p><p> ドローンやセスナ空撮で得られたデジタル画像や空中写真を,2次元の形状からカメラ位置や3次元形状を特定する手法であるSfM(structure from motion)を用いて点群データを作成した.1976年,2004年,2005年の空中写真,2011年,2012,2014年,2017年の航空レーザデータ,2016年〜2019年のUAV・セスナ空撮データから作成した点群データの比較や,現地調査や空撮画像から崩落箇所の地形場の特徴を検討し,地質ごとの礫の大きさと分布,雪渓や雪渓以下の河床の季節変化を調べた.地温データは,2015年〜2017年に丸山付近(2750m,積雪深1m以下の西側風衝斜面),白馬山荘付近(2800m,積雪深5m以上の東側斜面)で測定したものを,雨量データは猿倉(1250m),頂上宿舎(2730m)のものを使用した.</p><p>3.結果 </p><p> 杓子岳では,1976年以降,北東から北向きの崩壊斜面が地点数,面積ともに極端に少なく,東から南向きの斜面が卓越するという斜面方位で崩落に違いがみられた.死傷者を出した2005年の崩落箇所において,周囲よりも節理が密に発達する箇所の近年の岩壁後退を確認した.2018,2019年の白馬岳からの崩落量と発生個所の斜面プロファイルを点群解析から求め,崩落箇所の崩落前と崩落後の地形変化を調べた.その結果,白馬岳と杓子岳では,侵食形態に違いがみられ,雪渓上の堆積様式も異なっていた.二号雪渓より上流の大雪渓上に堆積した礫は,白馬岳側と杓子岳側で礫径2mほどの大きさであった.一方,杓子岳側の礫径は小さいが,礫数が多く,崖錐が連続的に形成されている.また,杓子岳,白馬岳ともに,過去の規模の大きい崩落箇所は積雪がつかない凸斜面であったことが確認された.積雪深に違いがある,丸山付近と白馬山荘の地温データを比較すると,冬季に約10℃の温度差が確認された.</p><p>4.考察</p><p> 南向き斜面は北側斜面に比べて凍結融解および熱収縮の頻度が高く,土壌が活発に移動する(Cooper, 1960).本調査地の杓子岳においても,南向き斜面での崩落頻度の割合が大きかったことから,凍結融解および熱収縮に支配された地形形成作用の違いが南北斜面の崩落に違いをもたらした可能性がある.また,地温データの結果より,積雪深の差が地温に影響を及ぼすことから,積雪がつかない凸型斜面は凍結融解深度が深く,年周期の破砕効果が強く働いている可能性が考えられる.次に,2016年〜2019年の大雪渓末端より下流部の河床の土砂収支について検討した.2016年〜2017年にかけて大量の土砂の供給が確認された.この時期に大規模崩落は確認されておらず,豪雨あるいは近年の大雪渓の融解と崩壊によって雪渓内の多量の礫が解放により土砂が多量に供給された可能性がある.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390846609819456000
  • NII論文ID
    130007822130
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_262
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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