リップストラップを装着した牽引訓練で閉口障害と嚥下障害の改善をみた症例

DOI
  • 杉山 明宏
    公益社団法人有隣厚生会富士病院リハビリテーション科
  • 大野 達朗
    公益社団法人有隣厚生会富士病院リハビリテーション科 公益社団法人有隣厚生会富士病院整形外科
  • 寺島 瑞穂
    公益社団法人有隣厚生会富士病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • Traction Training with Lip Strap to Improve Mouth Closing Ability and Dysphagia: A Case Report

この論文をさがす

抄録

<p>【緒言】著しい閉口障害に嚥下障害を合併した患者に対して,閉口訓練を工夫したことで,開口状態が改善し経口摂取が可能となった症例を報告する.</p><p>【症例】85 歳男性,201X 年7 月末に誤嚥性肺炎,脱水症で近医入院となった.経口摂取再開後も閉口不能で嚥下が困難なため,嚥下訓練目的で8 月に当院へ転院した.</p><p>【経過】閉口障害の評価のためCT検査を施行したが,顎関節脱臼や骨折は指摘できず咀嚼筋の麻痺が疑われた.言語聴覚士による下顎の関節可動域訓練と筋力増強訓練を実施したが,開口状態は改善せず,収縮期血圧が180 mmHg を超えることが頻回であった.オトガイ帽を装着しての牽引訓練では,リトラクターを牽引するゴムバンドの力が微弱で十分に下顎が挙上しないため,顎関節装具(商品名:リップストラップ)を装着しての牽引訓練に変更した.装着しての直接訓練では閉口位が保たれ少量の嚥下が可能であったが,未装着では開口状態となり,嚥下は困難であった.牽引訓練を継続したことで,未装着の状態でも閉口位の保持が可能となり,1,600 kcal/ 日のミキサー食が全量摂取可能となった.78 病日で退院となり,前入所施設へ再入所となった.</p><p>【考察】閉口障害は,頭部MRI で咀嚼筋の責任病巣に異常所見を認め,両側の咬筋を中心に咀嚼筋の著しい低緊張が明らかなことから,三叉神経麻痺による咀嚼筋麻痺と推察した.直接訓練開始時,リップストラップを装着した場合は下顎の挙上が代償され,閉口しての嚥下が可能であった.VF では,口腔の容積が減少したことで舌が口蓋に接するようになり,咽頭への食塊の送り込みが改善して嚥下が可能になった.牽引療法では中枢神経疾患による筋緊張の異常に対して持続牽引が用いられるが,リップストラップは,顎ベルトにより固定力が一定に保たれ,数時間の持続牽引が可能であった.リップストラップによる持続牽引で咀嚼筋の筋収縮が促され,閉口位が獲得されたものと示唆された.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ