血液凝固制御と血栓症

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  • Blood coagulation regulation and thrombosis

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抄録

<p>止血血栓形成は血液凝固促進/阻止因子の巧みな共同作用により営まれる.例えば,血液凝固反応で生じたトロンビンがアンチトロンビン(AT)に結合してその凝固活性を失うことで更なる不要な血栓形成は制御されるが,その不十分な凝固制御は血栓症につながる.著者は,米国MITのRobert D. Rosenberg研究室にて血液凝固制御に関する研究を開始し,血管内皮ヘパラン硫酸プロテオグリカンRyudocan(Syndecan-4)を同定したが,ヘパラン硫酸はヘパリンと同じくトロンビンの不活化を劇的に加速するATコファクター機能により血液流動性維持に働く.帰国後,生体内機能を検証するためノックアウト(KO)マウスの作製解析を行い,Ryudocanが感染や組織損傷での生体防御分子として重要な働きをもつことを報告した.さらに著者らはAT KOマウスも作製し,ATが心筋や肝臓血管での血液凝固制御に重要で,AT完全欠損が胎性致死をもたらすことを明らかにした.実際にヒトの完全AT欠損症例は未だ報告されていない.静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は後天的・遺伝的要因が関わる多因性疾患である.著者らはAT,プロテインC,プロテインS欠乏症など遺伝性血栓性素因家系のVTE患者に原因となる遺伝子バリアントを数多く同定してきた.特筆すべきことに,新たな遺伝性血栓性素因・ATレジスタンス(ATR)をプロトロンビン遺伝子バリアント(c.1787G>T, p.Arg596Leu: Prothrombin Yukuhashi)に特定したことが挙げられる.Arg596Leuプロトロンビンは凝固活性がやや低いものの活性化後のTAT形成能が著しく低下し,血漿中においてもトロンビン生成試験のピーク活性はやや低いが不活性化は著しく遅延していた.すなわち,YukuhashiバリアントはATRによる易血栓性をもたらす機能獲得変異であった.ATRがこれまで発見されなかった理由の一つに,従来の止血血栓検査法では検出できないことがあった.そこで著者らがATR検出検査法を開発したところ,セルビア人家系に異なるバリアント(c.1787G>A, p.Arg596Gln: Prothrombin Belgrade)を同定し,このバリアントは親族関係にない2人の日本人,インド人,および中国人にも検出された.さらに同じアミノ酸で別のバリアント(c.1786C>T,p.Arg596Trp: Prothrombin Padua 2)のATR症例もイタリア人に報告され,ATR血栓性素因が日本だけでなく世界中に存在することが示された.まだ他にも,遺伝性の血液凝固調節バランス不全が血栓症をもたらす未知の病態がさらに存在するかも知れない.</p>

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