iPS評価技術に向けた散乱光計測の応用展開

  • 渡邉 朋信
    (国)理化学研究所 生命機能科学研究センター 広島大学 原爆放射線医科学研究所 幹細胞機能研究分野
  • 藤田 英明
    (国)理化学研究所 生命機能科学研究センター
  • 金城 純一
    (国)理化学研究所 生命機能科学研究センター

書誌事項

タイトル別名
  • Application of scattering microscopy for evaluation of iPS cell and its differentiated cells
  • iPS ヒョウカ ギジュツ ニ ムケタ サンランコウ ケイソク ノ オウヨウ テンカイ

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抄録

<p>人工多能性幹細胞(iPS細胞)から,様々な人工細胞や人工組織が作られるようになり,iPS細胞を用いた再生医療にますます期待が高まっており,iPS細胞の品質評価・管理の規格化は急務である.その中で,機械学習などの人工知能(AI)技術を用いることで,光学顕微鏡画像から,iPS細胞およびiPS細胞由来の体細胞の品質を短時間に低コストで評価する方法に注目が集まっている.光学顕微鏡の主役である「光」は,観察対象内部の情報を含んでいる.光は物質に照射されると,その内部の分子と相互作用した後に散乱される.この光と分子との相互作用には様々な様式があり,それぞれ,分子内部の構造・配向・動態などの情報を反映している.細胞に光を照射した際の散乱光に対して,分光測定,偏光測定などにより解析することで,非染色かつ低侵襲で,細胞の状態や分化の過程を識別,評価できるのである.本稿においては,ラマン散乱光計測と光第二高調波計測の例について述べる.ラマン散乱光は細胞を構成する分子内・分子間の分子結合の情報を網羅的に含むが,細胞は多種多様の物質で構成されているため,細胞のラマン散乱スペクトルは,分解分離がほぼ不可能なほどに複雑になる.機械学習であれば,複雑なデータであっても目的に沿って解析してくれる.光第二高調波は,構造に依存した電荷の偏りに依存した光であり,生体試料においてはタンパク質の構造情報を反映する.この特徴を利用して,心筋細胞における筋肉分子の働きを非染色かつ低侵襲で評価できる.散乱光計測では,遺伝子やタンパク質の発現パターンなど,詳細な情報を得ることが出来ない.しかしながら,その低侵襲性は医療応用にとって多大なアドバンテージである.散乱光によるiPS評価技術は,細胞生物学的知見の蓄積とAI技術の進歩により,今後,当該分野においてスタンダードになっていくと期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本薬理学雑誌

    日本薬理学雑誌 155 (5), 312-318, 2020

    公益社団法人 日本薬理学会

参考文献 (15)*注記

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