ポスト・コロナ社会における感染症の健康危機管理情報とリスクコミュニケーション

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タイトル別名
  • The information of health crisis management and risk communication in post corona society

抄録

<p>1. はじめに</p><p> 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、世界中で健康危機管理情報の配信が行われている.その中で、「インフォデミック(Infodemic)」という現象が発生し、インターネットとSNSの発達によって情報の拡散力が急激に高まっている.インフォデミックは、情報の急速な伝染(Information Epidemic)を短縮した造語で,2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行時に生まれ、正しい情報と不確かな情報が混じり合い、信頼すべき正しい情報を見失った状態を意味する.2009年のインフルエンザAH1N1pdmのパンデミックの際も同様に、インフォデミックによる社会的混乱が発生し、感染症情報のリテラシーに関する問題が指摘された.本発表では、日本における健康危機管理情報の課題を整理し、ポスト・コロナ社会における健康危機管理情報とリスクコミュニケーションに向けた課題を整理する.</p><p>2. 感染症と健康危機管理情報</p><p> これまで、人類は多種多様な感染症のパンデミックを経験し、それらの撲滅や予防のために情報収集と配信を継続してきた.特に2009年のインフルエンザAH1N1pdmのパンデミック以降、リスクマネジメントとリスクコミュニケーションに関する議論が進められており、世界保健機関(WHO)は、2017年にインフルエンザリスクマネジメントに関する基本方針を発表した(WHO 2017).その基本方針の一部には、社会包摂的アプローチの導入が提案され、そこでは、空間スケールに関する言及もされた.感染症を撲滅するのではなく、いかにして予防・制御していくのかに重点が置かれ、日常的な備えとして、地域レベルに応じた効果的な情報配信とリスクコミュニケーション体制の整備が求められている.また、各地域レベルで、経済、交通、エネルギー、福祉などの各分野が協同でリスクマネジメントに取り組むことが明記されている.日本においては、厚生労働省と国立感染症研究所を中心とした感染症発生動向調査(NESID)が国の感染症サーベイランスシステムとして構築され、1週間毎の患者数や病原体検査結果が報告されている.しかし、NESIDで収集される感染症情報は、患者や病原体を報告する医療機関が限られており、速報性に欠ける欠点を持ち、地方レベル以下のローカルスケールにおける詳細な流行状況を知ることには適していない.</p><p>3. 空間スケールに応じた情報配信体制の構築</p><p> NESIDによる感染症の調査監視体制は、各地方の保健所を最初の窓口とし、そこから地方衛生研究所、国立感染症研究所、厚生労働省へ伝達されていくピラミッド型の構造になっている.これは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づき、感染症類型や患者把握の手法を問わず実施されているものである.一部地方の臨床現場では、この構造から生じる課題を、2009年のAH1N1pdm後から指摘している.具体的な課題として、「情報配信の迅速性の欠如」、「詳細な流行状況の可視化」、「新しい手法・技術の導入」が挙げられる.これらの課題を克服するために、岐阜県や神奈川県川崎市などにおいて、ローカルスケールを対象としたローカルサーベイランスの導入が進んでいる.NESIDと異なり、上位機関へ情報を通すことなく、各専門機関が独自で住民に情報配信をすることで、上記の課題改善に繋げている.加えて臨床現場における診療対応に直接指示を出せるだけでなく、住民の危機意識を啓発させる効果がある(荒堀 2017).</p><p>4. ポスト・コロナ社会のリスクコミュニケーション</p><p> COVID-19を契機として、公的機関による情報配信だけでなく、民間企業や報道機関の参入も増えている.今後は、それらに加えてSNSによる新しい手法や、デジタル疾病地図の整備が進むと考えられる.前者はIndicator Based Surveillance(IBS)、後者はEvent Based Surveillance(EBS)と呼ばれる.IBSは,一定の指標に基づいて報告・評価するサーベイランス、EBSは公衆衛生事象の発生に基づくサーベイランスである.しかし、欠点としてIBSは想定外の発生を捉えることができず、EBSは、臨床診断に基づいていないため、リスク評価基準が定まっていないことが挙げられる(中島 2018).臨床現場においては、EBSの導入に賛同する声もあるが、臨床診断が無いことを問題視する指摘がある.先述のローカルサーベイランスは、専門機関の管轄地域内における臨床診断結果に基づいて、直接地域の医療従事者と住民に情報を還元できる利点を持っている.今後の普及に向けて、科学的根拠に基づくリスクコミュニケーションに向けた対話型地図の導入や制度の整備に向けた議論が求められる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390849376473588992
  • NII論文ID
    130007949197
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_145
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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