19世紀後半以降のフィリピンにおける降水の季節進行

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  • Seasonal march of rainfall in the Philippines since the late 19th century

抄録

<p>1. はじめに</p><p> フィリピンでは,気温よりも降水量の季節変化が大きく,アジアモンスーンと南北に走る山脈の影響により,その東西で明瞭に降水量の季節進行が異なる点に特徴がある。筆者らはこれらの長期変化特性に着目して,これまで研究を行ってきた(たとえばAkasaka et al. 2018など)。降水量の季節進行は,水資源量や自然災害の発生頻度の変化と深く関連している一方,その年々変動の特性や要因,長期変化傾向については充分に明らかになっていない。その理由の一つとして,利用可能なデータ期間の制約がある。フィリピンの気象庁(PAGASA)が設立され観測網が整備されたのは,1940年代以降であったため,降水量データが使用可能な期間も20世紀後半以降に限られていた。</p><p>一方で,筆者らの調査により,PAGASA設立以前に米国やスペインのイエズス会士によって行われていた気象観測の資料が日本の気象庁,英国のMetOffice,ハワイ大学等に紙資料で残っていることがわかった。これらの資料を取集し電子化する「データレスキュー」を進めた結果,これまで明らかにされていなかった100年スケールでのフィリピンの気候とその変化に関する解析が可能となってきた(赤坂,2014)。本発表では,データレスキューにより得られたフィリピン気象観測データを用いて,19世紀後半以降の降水量の季節進行の特徴とその変化傾向について紹介する。</p><p></p><p>2. 使用データ及び解析方法</p><p> フィリピンで最も長期の気象観測資料を有するのはマニラである。マニラは,雨季・乾季が明瞭な地点でもあるため,まずは19世紀後半以降のマニラにおける降水量の季節進行を分析した。使用データは,1868年1月〜1900年12月はマニラ気象月報(Observatorio Metorologico de Manila),1901〜1940年はフィリピン気象月報(Monthly Bulletin)等から電子化した値を使用し,1947年以降はPAGASA提供のマニラ(地点名Port Area)の観測値を使用した。これらのデータを接続して半旬降水量に編集し,平均半旬降水量を算出した。この平均半旬降水量の値(25.0mm)を用いて,赤坂ほか(2017)と同様に,4月(19半旬)以降に半旬降水量が25.0mm以上(未満)となった最初の半旬を雨季入り(雨季明け)とした。19世紀末以降はマニラ以外の地点の気象資料もあるため,発表ではそれらの降水量データを用いた分析結果も紹介する。</p><p></p><p>3. 結果と考察</p><p> 1868年以降の半旬降水量と,雨季入り・明けを図1に示す。雨季入り・明けの全期間平均値はそれぞれ約27半旬(5/11-5/15)と約67半旬(11/27-12/1),標準偏差はそれぞれ約7半旬と約5半旬であった。雨季入り・明けの時期には,年によりおよそ1ヶ月前後の変動があるといえる。</p><p> 19世紀後半を対象に,マニラにおける半旬降水量と,卓越風系の出現率の季節進行との関係を分析した結果(図略),雨季入りと降水量ピークは,南西風系の出現率が増加し始める時期と,最も高くなる時期にそれぞれ対応していることがわかった。また雨季明けは,北東風系の出現率が急激に高くなる時期に対応していた。20世紀後半以降においても同様の関係がみられるため(Akasaka et al.2018),今後はフィリピンにおける降水量の季節進行とモンスーンの長期変動との関係を調査していきたい。</p><p></p><p>引用文献</p><p>赤坂郁美.2014. フィリピンにおける19世紀後半から20世紀前半の気象観測記録.専修大学人文科学研究所月報第272号:1−15.</p><p>赤坂郁美ほか.2017.19世紀後半〜20世紀前半のマニラにおける降水の季節変化特性.日本地理学会春季学術大会要旨集91.298.</p><p>Akasaka et al. 2018. Seasonal march patterns of the summer rainy season in the Philippines and their long-term variability since the late 20th century Progress in Earth and Planetary Science 5 (20).</p><p></p><p>謝辞:本研究の一部は文部科学省のDIAS及びGRENE事業と,JSPS科研費(19H00562,19H01322, 15K16283)の支援を受けた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390849376473594624
  • NII論文ID
    130007949220
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_134
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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