Lifestyle Migration of Working Generation to Seaside Resort on the outskirts of Tokyo Metropolitan Area
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- SUZUKI Shuto
- Graduate Student of University of Tsukuba
Bibliographic Information
- Other Title
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- 首都圏郊外の海浜観光地における現役世代のライフスタイル移住
Description
<p>1. はじめに</p><p> バブル崩壊以降,首都圏周辺の観光地では観光需要の低下に伴う社会経済的な構造変化が発生した.その中で,一部の観光地域はライフスタイル志向の現役世代の居住地として嗜好されるようになり,既存の観光空間が変容している.彼ら彼女らは欧米の人口移動研究で議論されるライフスタイル移住者に類似した特徴をもつ.欧米の研究ではライフスタイル移住者の移住行動に関して,真正性・特権・想像力などの社会的・文化的な諸概念から考察がなされている(Benson and Osbaldiston 2014).しかし従来の研究では,観光地の構造変化とこうした移住者の増加との関係性が十分に論じられていない.</p><p> 本報告では神奈川県鎌倉市の旧鎌倉地区を研究対象地域として,そこでライフスタイル志向の現役世代移住者が増加する理由について,特に移住者側の移住の実践とそれに対する意味付けに注目して考察する.ところで,人口移動研究では一般に長距離移動を移住,短距離移動を居住地移動として扱う.しかし,近年は短距離移動であっても移住者自身によって「移住」と表象されるパターンの移動がみられる.東京都内や横浜からの移動が卓越する鎌倉の場合も「鎌倉移住」と表象される移動がみられる.そこで本研究では「移住」を,定量的な指標では明らかにできない,移住者自身の内在的な意思や思惑を包含する語と定義して検討を進める.</p><p></p><p>2.鎌倉移住者の移住経緯とライフスタイル</p><p> 1990年代以降の鎌倉市では,バブル崩壊の影響により住宅・労働市場の構造が大きく変化した.中心市街地である旧鎌倉地区では,海浜部の別荘や邸宅が売却され,2000年代以降に小規模な戸建住宅地区やアパート・マンションへと変化した.さらに2010年代以降はゲストハウスに代表される小規模宿泊施設や飲食業の増加,ならびに小規模知識産業(とくにIT産業)の集積がみられる.「鎌倉移住」はこうした地域的変化の中で展開してきた現象である.</p><p> 鎌倉移住者の多くは,東京都心やその周辺で働く(働いていた)比較的高い職業階層の人々である.移住者は東京でのあくせくした働き方や暮らし方,人間関係などを疑問視して移住を決断する.鎌倉を選択する理由は過去の観光での訪問の影響が大きいが,イメージの良さ,都心からの交通アクセスの良さ,転職のしやすさなどが複合的に影響している.隣接する逗子や葉山ではなく鎌倉を選ぶ理由として,鎌倉のカジュアルな雰囲気を挙げる移住者がみられた.彼ら彼女らは逗子や葉山の高級なイメージに対して忌避感をもっている.移住者の多くは賃貸物件に居住しており,東京より賃料が安い点を評価している.移住者の中には,東京での家賃の高さが将来の不安となっていた者もいた.鎌倉では女性や未婚の単身者による移住が多いが,その中には離職や離婚などを経て「過去の人生の重荷を捨てたい」と考えていた者も少なくない.総じて移住者は鎌倉での暮らしを「シンプル」で洗練されたものとして認識している.</p><p> 移住者は鎌倉での日常生活の中で生み出されるワークライフスタイルを重視している.出勤前に行うサーフィンや,寺院での朝ワーク(座禅とテレワークの組み合わせ)などはその一例である.移住者はそこから得られる精神的効果を仕事や生活の質の向上につながるものとして捉えている.また,移住者は鎌倉での人間関係や地域コミュニティを肯定的に捉えている.さらにこうした日常生活の諸相をSNSやブログで発信する者も多い.このように,現役世代移住者は自身の「移住」に対する意味付けや個人的事情に引き付けて鎌倉の環境を認識し,生活の質の向上を目的とした様々な実践を行いながら日常生活を送っている.</p><p></p><p>3.「移住」と「質の高い」日常生活</p><p> 都市生活で生じた葛藤を解消していくために,移住者は鎌倉での住まいや近隣環境のみならず,そこでの日常生活の経験や実践に強い意義を見出す傾向がある.こうした傾向は,質素な暮らしやオルタナティブなライフスタイルを志向する移住者側の文化や都市生活のストレスといった個人的要因,住宅・労働市場の変化といった鎌倉がもつ地域的要因が複雑に絡み合うことによって生じている.その際,歴史文化や海浜景観は鎌倉という場所の真正性を担保する重要な要素となる.鎌倉では観光地としての構造が変化していく中で,移住者にとって真正で「質の高い」日常生活の経験や実践を行いやすい環境が形成されつつあり,このことがライフスタイル志向の移住者を惹きつける要因になっていると考えられる.以上の知見は,現代日本で増加しつつあるライフスタイル移住,首都圏周辺部における観光地の構造変化,それに伴う観光空間の変容の3者の関係性を考える上で,有効な視点を提示する.</p>
Journal
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- Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers
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Proceedings of the General Meeting of the Association of Japanese Geographers 2020a (0), 176-, 2020
The Association of Japanese Geographers
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Details 詳細情報について
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- CRID
- 1390849376473602304
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- NII Article ID
- 130007949233
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- Text Lang
- ja
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- Data Source
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- JaLC
- CiNii Articles
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- Abstract License Flag
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