首都圏における夏季日中の海風循環と気温分布について

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  • Daytime Temperature Distribution and Sea Breeze Circulation in the Tokyo Metropolitan Area in Summer

抄録

<p>はじめに</p><p></p><p>夏季の関東地方では,南風が卓越するときに,海からの冷気移流によって相対的に沿岸部で低温,内陸部で高温になることが知られている。一般風が弱く海風が発達する日において,アメダスの気温によると,都心から関東平野の北西部に位置する前橋まで南東-北西方向の帯状に高温域(以下,「北西方向の帯状高温域」という)が広がっている(藤部 1993)。しかし,海からの冷気を運ぶ海風が,東京の都市化の影響で,東京の風下地域への進入が遅れていることが指摘され(Yoshikado and Kondo 1989),海風の進入が遅れる東京の風下地域で高温になるとの報告がある(Kusaka et al. 2000)。この海風循環による高温域を観測,解析するために,発表者らは首都圏で多地点の気温観測網(広域METROS)を構築し,首都圏の気温分布について解析してきた。本講演では,このデータを用いて夏季晴天日の日中を対象に,首都圏の気温分布に海風循環が与える影響ついて報告する。</p><p> </p><p></p><p>典型的な海風前線日における気温と海風前線の時間変化</p><p></p><p>海風循環が気温分布に与える影響を見るために,典型的な海風前線が見られた日における海風前線と気温分布の時間変化について報告する。気温上昇の停止または気温低下を伴う地上風の不連続線を海風前線と見なした。午前9時頃から海風は東京湾と相模湾から海岸線に平行に侵入し始める。今回の手法で検出できる海風前線は10〜12時以降の日が多く,本事例の日は12時に海岸線から約20kmの位置に海岸線に平行に見られた。その後15時にかけて内陸へ進行するが,この時間帯において都心の風下では進行速度が遅かった。16時以降は,地上風の不連続線が見られなくなるが,気温の下降量の不連続線は内陸へ進行していた。次に気温分布を見ると,12時には,北西方向の帯状高温域が形成され,そのなかで海風前線の内陸側10〜20kmの範囲で周囲よりやや高い気温の観測点が存在した。15時にかけて北西方向の帯状高温域は相対的に高温になっていくが,その中でも海風前線の内陸側のうち,都心の風下地域で特に気温が高い傾向が見られた。</p><p></p><p> </p><p></p><p>水蒸気量と気圧の時間変化と海風前線</p><p></p><p>海風前線の内陸側の高温の形成要因を考えるため,地上気圧と相対湿度から算出した水蒸気量の時間変化について解析した。海風の進行方向に沿った観測点の気温,水蒸気量,海面更正気圧(SLP)の時系列変化を図に示した。SLPの時間変化は,10時頃まで都心で最も気圧が低く,それ以降は内陸の方が高くなる時間変化を示していたが,川越では9〜12時頃にかけて都心とほぼ同じ気圧であり,海風前線の進行を妨げる気圧差であった。水蒸気量は川越と熊谷では海風前線の通過前に顕著な低下が見られたが,練馬では微減,都心では低下が見られなかった。この水蒸気量の低下の空間分布を見ると,12時〜13時に海風前線の都心の風下で水蒸気量の少ない地域が形成され,水蒸気量の少ない地域が海風前線の進行と共に内陸へ移動し,熊谷付近の観測点のある地域の北限まで移動していた。この水蒸気量の低下から,都心の風下の海風前線の前面に下降流の存在が示唆され,海風前線の前面の高温傾向をもたらしていると考えられる。これらのことから,海風が都心を通過した際に海風循環が影響を受け,風下地域に高温をもたらしていると考えられる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390849376473619072
  • NII論文ID
    130007949103
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_111
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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