障害児者の睡眠障害について

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  • 福水 道郎
    医療法人社団 昌仁醫修会 瀬川記念小児神経学クリニック 東京都立府中療育センター 小児科

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抄録

障害児者の睡眠障害は、運動、行動、認知、てんかんなどに関わる症状すべてに複雑に関連する。多数・過量な薬物による日中の眠気や睡眠覚醒リズム不整もあり、中枢神経障害による知的障害、てんかん、麻痺・筋緊張異常、自律神経障害等をもつ重度の心身障害児者は、不安や緊張が生じやすく健常者とは異なるストレスもある中で生活しているとも考えられる。その結果さらに不規則で分断化した質の悪い睡眠に陥り、免疫機能低下や生活習慣病罹患にもつながり、毎日の健康維持が大変難しい。睡眠覚醒リズム障害・不眠等の睡眠障害を単純にターゲットとした睡眠補助薬等を使用した治療ではよくならないことが多く、薬物の整理や睡眠障害に関連する症状(痙性や筋緊張・睡眠時の呼吸等)を改善させることで日中の覚醒度や活動、神経症状、ADLに改善がみられるのが特徴である。また、障害児者が夜間起きていると介護・吸引の回数が増える等して眠れないなど養育者の睡眠、疲労および抑うつと関連する。アクティグラフィによるアクティビティカウントからは客観的な睡眠覚醒リズムが把握できる。睡眠時の心拍変動解析では副交感神経活性度や交感神経の活性度による自律神経バランスによる睡眠の質が評価できる。睡眠覚醒リズムや自律神経バランス、さらに尿中メラトニン代謝物の値などもみると脳障害の重症度を評価できる可能性もある。重症心身障害児者(以下、重症者)の睡眠は不規則で分断化し、自律神経バランスにはばらつきがある。尿中メラトニン代謝物とこれらの相関は認められなかったが、尿中メラトニン代謝物は動きのある重症度の低い生活病棟患者に比較し、医療病棟の動きのない重症度の高い患者は高値である患者が多い。重症者においては、メラトニンの高値は睡眠覚醒リズムの脆弱性とも関連している可能性がある。メラトニンは強力な抗酸化物質としても知られており、精神的ストレス等交感神経興奮刺激への筋・皮膚交感神経反応を軽減させる。尿中メラトニン代謝物高値は重篤な脳障害、精神神経症状に伴うストレスの持続を反映すると考えられる。各自異なる自律神経バランスは多様な自律神経病態を示しているが、睡眠の質の低下を反映していると考えられる患者も多いと推測される。中枢神経の障害のされ方、二次性の障害により障害児者個々の病態も違い、薬物による副作用等もあり、呼吸状態や消化効率、エネルギー消費等もそれぞれ異なると考えられる。障害児者はそれぞれ発達凹凸なども加わり個性が非常に豊かでDiversity & Inclusion、つまり多様性の受容が重要である。通常評価では睡眠障害があると考えられても体調が良好であれば睡眠も良好と考えられ、また逆も真なりで卵と鶏のような関係である。障害児者のベストの睡眠と考えられれば、それを修正する必要はないのかもしれない。ただ、介護者のことを考えると1回の睡眠持続時間は短くても、中途覚醒で介護者に迷惑をかけることなく再入眠し、夜間にはできるだけ眠れるようなリズム調整が必要だと考える。メラトニン治療により睡眠潜時、夜間覚醒のみならず総睡眠時間が増えたという報告があり、睡眠障害の改善に伴い、痙性も改善した報告もある。呼吸障害への対策、痙性のコントロール(ボトックス療法、ITB療法)やてんかんのコントロール、抗てんかん薬の整理により、睡眠障害が改善したとの報告は多い。高照度光療法は昼夜逆転例に適応と思われるが、めがね型の治療器も開発されており、寝たきりの患者での使用も期待される。ハーブは昼間の眠気や日中の活動を損なわず、有効例の報告もある。快眠サプリメントも開発され、作用機構も解明されてきており、副作用が少なく今後有効例が期待される。このセミナーではこれまで演者が経験した障害児者の睡眠についての知識や経験、研究を元に概説する予定である。 略歴 東京医科歯科大学医学部卒業。医学博士。現在、瀬川記念小児神経学クリニックと国立精神・神経医療研究センター小児神経科睡眠外来で小児神経学臨床と臨床研究に従事。Maine大学心理学科客員研究教授、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部客員研究員、国立精神・神経医療研究センター病院小児神経科(睡眠障害センター)非常勤医師、医薬品医療機器総合機構専門委員、東京都医学総合研究所研究員、東京都立小児総合医療センター臨床研究支援センター非常勤医師 学会等活動:日本小児神経学会評議員・専門医、日本てんかん学会評議員・専門医、日本睡眠学会認定医、日本小児科学会専門医、日本臨床神経生理学会認定医

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