糖尿病と転倒,そして骨折リスク

  • 石澤 正博
    新潟大学医歯学総合病院臨床研究推進センター/内分泌・代謝内科

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タイトル別名
  • トウニョウビョウ ト テントウ,ソシテ コッセツ リスク

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抄録

<p> 日本の糖尿病患者は近年大幅に増加しており,主な合併症に関しては周知が進みつつあるが,糖尿病が実は「全身病」であることはよく理解されているとはいえない。さらに転倒リスクが増えることは,「糖尿病治療ガイド」や数々の診療ガイドラインでも,十分には説明されていない。</p><p> まず医療者側が,糖尿病が複合的な栄養関連障害を来すことや,食事療法として単純に食事摂取量の抑制と体重減少が指示されがちであることからサルコペニアが起こりやすいこと,運動療法の管理・評価が困難であること,薬物療法は低血糖を起こさないように慎重にしつつ治療目標を個別に検討しなければならないこと,多剤併用を避けること,等,多くの「原則」を掌握する必要がある。</p><p> その上で,改めて糖尿病患者の転倒リスクを俯瞰すると,数多くの要因が関わっていること,またそれぞれの要因について改善は困難で,生活療法を中心とした予防策が重要であることが理解できる。それは今すぐにでも始めるべきであるが,一方で,それらの予防策によってどれだけ転倒リスクを減じることができるのか,エビデンスが不足しているのも事実である。</p><p> また転倒はそれ自体よりも,その結果として起こる骨折・寝たきりこそが問題なのであるが,糖尿病では,骨質の悪化という骨密度等の日常検査では計れない上乗せの骨折リスクがあることも分かっている。一部の糖尿病治療薬はさらに骨折リスクを高める。</p><p> 転倒・骨折予防と糖尿病治療とは,共通するところもあるが,両立が難しい部分もある。エビデンスが不足しているとはいえ,まずは前者については十分に推し進め,後者は原則を念頭に個々の患者について臨機応変に対応することから始め,やがてはそこから得られる多くの知見を次の研究につなげていくことが重要である。</p>

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