キルギス共和国,南イニルチェック氷河における湖盆の地形変化

書誌事項

タイトル別名
  • Evolution of supraglacial ponds at the southern-Inylchek glacier, Kyrgyz Republic

説明

<p>はじめに</p><p> 近年,アジア山岳地域では複数の氷河上湖からの大規模出水による災害が発生しており,下流域の住民に被害を与えている.Wang et al.(2013)は,天山山脈,ブータン・ネパールヒマラヤ地域では氷河上湖が増加傾向にあり,これらの地域では今後,氷河上湖の大規模出水に伴う災害が増えると指摘している.このため,氷河上湖からの出水洪水のリスク評価をするうえで,出水量を決定づける湖盆地形を理解することは重要である(Cook and Quincey,2015).しかしながら,先行研究の調査範囲は氷河の一部区域に限られているため,氷河全体での湖盆地形の特徴が明らかになっていない.そこで本研究では,衛星画像を用いて,キルギス共和国の南イニルチェック氷河全域において,氷河上湖の形状を決定する面積・体積,最大水深,形状の複雑さの指標となる真円度を求め,これらの関係から湖盆の地形変化を考察した.</p><p>研究地域・対象氷河上湖</p><p> 研究対象地域は,キルギス共和国東部に位置する南イニルチェック氷河である.南イニルチェック氷河は全長約60.5kmのキルギス最長の谷氷河であり,そのうち岩屑域は末端から約22kmを占める.南イニルチェック氷河の氷河上湖は4月から増加しはじめ,5〜6月に最大となり,6〜7月に減少する(Narama et al., 2017).南イニルチェック氷河には2018年6月時点で,約496個の氷河上湖が存在する.本研究では,観測期間の中で完全に出水した92個の氷河上湖を対象とした.</p><p>研究方法</p><p>本研究では,SPOT-6のDSMおよびオルソモザイク画像(1.5m解像度)とPlanet社提供のオルソモザイク画像(3.0m解像度)を用いて,南イニルチェック氷河全域の氷河上湖の面積・体積および最大水深を算出した.図1に算出手順を示す.また,氷河上湖の複雑さの指標である真円度は式(1)を用いた.真円度とは,円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさをいい,値が1に近づくほど図形は円形を示し,値が大きくなるほど図形は円形とは異なる形体を示す.ここで,Aは氷河上湖の面積,Pは周囲長とする.</p><p>Circularity=P²/4πA      (1)</p><p>結果</p><p> 図2,3に算出された面積・体積および最大水深・真円度の関係を示す.南イニルチェック氷河の面積4000m²以上の氷河上湖には,深さ方向に拡大する深く単純な形状の氷河上湖,面積方向に拡大する浅く複雑な形状の氷河上湖,上記のどちらにも当てはまらない面積・体積が最大値をとる,深く複雑な氷河上湖の3パターンがあることが明らかとなった.</p><p>考察</p><p> それぞれの形状および拡大過程から,湖盆の地形変化(形成,拡大,消滅)を考察した.パターン1(橙):氷河内水路の陥没により形成されるため浅く複雑な形状をとり,面積方向へ拡大する.その後,表面低下により水がたまらなくなり,消滅する.パターン2(緑):デブリ上のくぼ地に形成され,水路と連結するまで形状を保ったまま深さ方向へ拡大するため,深く単純な形状をとる.氷河内水路と連結後は,拡大が停滞し,表面低下とともに消滅する.パターン3(黄):深度の異なる複数の氷河内水路の陥没により形成されるため深く複雑な形状をとる.陥没後は,面積方向へ拡大し,表面低下とともに消滅する.以上のように,南イニルチェック氷河においては,湖盆の地形変化が3パターン存在することが示唆された.</p><p>引用文献</p><p>Cook, S. J. and Quincey, D. J., 2015. Estimating the volume of Alpine glacial lakes, Earth Surf. Dynam., 3, 559-575.</p><p>Narama, C., Daiyrov, M., Tadono, T., Yamamoto, M., Kääb, A., Morita, R., Jinro, U., 2017. Seasonal drainage of supraglacial lakes on debris-covered glaciers in the Tien Shan Mountains, Central Asia. Geomorphology 286, 133-142.</p><p>Wang, X., Ding, Y., Liu, S., Jiang, L., Wu, K., Jiang, Z., Guo, W., 2013. Changes of glacial lakes and implications in Tian Shan, central Asia, based on remote sensing data from 1990 to 2010. Environ. Res. Lett. 8, 044052.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390850475731095424
  • NII論文ID
    130008006651
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_195
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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