人口稀薄地域における鉄道と路線バスの競合問題

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タイトル別名
  • Competition between Railway and Bus in Low Density Populated Area in Japan
  • A case study of Bifuka Town, Hokkaido Prefecture
  • ―北海道美深町を事例に―

抄録

<p> Ⅰ 研究の目的</p><p></p><p> 人口稀薄地域において,長距離に亘って鉄道と路線バスが競合し,且つどちらの路線も収支が赤字であるといった事例は全国で見られるにも関わらず,これに着目した研究はほとんど無く,事業者や自治体がいかなる状況下で,いかなる判断をしたために競合が今日に至るまで実際に維持されてきたのかという具体的な実情については明らかでない.しかし,路線バスに対する補助金が各自治体の負担になっていることもあり,全国的に各地域で交通体系の見直しが行われ,財政や移動需要等の観点からより効率的な交通体系が摸索されている中,鉄道と路線バスの競合問題を取り上げることには大きな意義がある.特に,鉄道も路線バスも収支が赤字になっているような人口稀薄地域での競合問題は,より重要度が高い. </p><p></p><p> なお,本研究では地域交通史の手法を重視した.総需要が少ないにも関わらず,鉄道と路線バスの両者がいずれも赤字の状態で維持されているというのは,確かに一見して非効率であるが,単に改善策を摸索するだけでなく,なぜそのような状況が生じたのか,地域の歴史的な文脈に基づいて検討していく必要がある.これにより,鉄道と路線バスの競合がなぜ維持されてきたのかが明確になり,今後の地域交通体系の議論の円滑化に繋がる.</p><p></p><p> 以上を踏まえ,本研究では,人口稀薄地域において鉄道と路線バスが共に不採算であるにも関わらず,現在まで長年に亘り競合が継続されてきた理由・背景,そこから導かれる政策・制度上の問題を明らかにすることを目的とする.</p><p></p><p> </p><p></p><p>Ⅱ 鉄道・路線バスの展開と自治体の対応</p><p></p><p> 研究対象とした美深〜名寄間においては,概ね1960年代に人口と共に鉄道(JR宗谷本線)利用者数がピークを迎え,以後減少傾向にある.現在では線区自体の存廃が問題となっており,また利用者の少ない駅の廃止も予定されている.同区間において鉄道事業が不採算となった主たる原因は,沿線人口の減少,特に少子化による高校通学者数の減少ではない.若年人口の減少と町外進学志向の高まりが相殺しており,データのある1960年代後半以来,鉄道による高校通学者数に大きな変化は無い.鉄道事業収入の多くを占めていた貨物輸送がほぼ全てトラック輸送へ転換したことが第一の原因であったと考えられる.</p><p></p><p> また同区間を運行する路線バス(名士バス恩根内線)は,現在,広域的・幹線的な路線として生活交通路線維持費補助の対象となっており,データの得られた2003年以降,国・道・市町による補助金総額は増加傾向にある.</p><p></p><p> 同区間において,鉄道と比較して路線バスは,所要時間はほぼ変わらず,運行本数は多く,運賃は安い.また目的地近くで下車できる,住民の要望に対し柔軟に応じられる,鉄道より悪天候に強いというように,多くの点で鉄道よりも優位に立っている.</p><p></p><p> 町としては,JRの減便や存廃問題の浮上もあり,可能な限り多様な交通手段を確保することで,利便性の向上に努めてきた.JRに対する町の支出はほとんど無い一方で,路線バスには国・道と協調補助を行い,また札幌行き高速バスの乗降開始や高規格幹線道路の整備も要望し,実現した.</p><p></p><p> </p><p></p><p>Ⅲ 考察</p><p></p><p> 鉄道と路線バスが新設された当初は共に収支が成立していたが,1960年代に公共交通の需要がピークを迎えて以降需要が減少していった中でも,鉄道は廃止を免れ,路線バスは国の補助制度の都合上再編する必要に乏しかったため,両者共に存続し,更に一層の利便性向上のため,自治体は従来の公共交通機関に与える影響を充分に考慮することなく(考慮する必要性も乏しかった),新たな公共交通の導入・道路整備の推進を行ってきた.これは,かつて採算が成立していた交通機関が不採算となった後も極力維持し,更なる利便性も求める方向に自治体が行動しており,補助金制度や,国・都道府県・市町村・交通事業者の費用負担のあり方が不適切な中でそうした行動がなされた場合,過剰な供給が行われ得ることを示唆している.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390850475731106688
  • NII論文ID
    130008006623
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_139
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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