地誌学の視点・方法とアメリカ地誌

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タイトル別名
  • Regional geographic viewpoint and method and America's regional geography

抄録

<p>地誌学は地域性を明らかにし、地域認識の方法を提示することを目的とする。地域に関する総合的な理解に貢献する地誌学は、地理教育において特に重要である。アメリカ合衆国については様々な情報があふれているし、関係する学術領域において研究が蓄積されてきた。私は地誌学の視点と方法について、以下のような提案を行った。</p><p> 地誌学の7つのアプローチ:身近な地域の地誌、歴史地誌、グローバル地誌、比較交流地誌、テーマ重視地誌、網羅累積地誌、広域動態地誌という地誌学的アプローチを用いることにより、さまざまな地域スケールで世界を認識することができる。</p><p> アメリカ地誌の4層構造:アメリカ合衆国の形成過程に着目し、地域性と全体像をとらえるために、自然環境、アメリカ先住民の世界、ヨーロッパ文化圏の拡大、アメリカ化の進展という4層構造を設定する。地域的多様性を生み出す力と、等質性を生み出す力が作用することにより、アメリカ合衆国が形成された。</p><p> グローバリゼーション、ローカリゼーション、サステイナビリティ:現代の世界を地理学から展望し、地域像にアプローチするために、グローバリゼーション、ローカリゼーション、サステイナビリティの視角を用いることが有効である。縮小する世界、地域へのこだわり、地球と人類の課題を明らかにすることができる。</p><p> 世界の博物館アメリカ:アメリカ合衆国は世界各地から流入する移民にとって終着駅であり、世界中から文化要素が持ち込まれた。移民の出身地は時代によって異なるとともに、移民の出身地では社会、経済、文化が変化した。その結果、アメリカ合衆国には移民が持ち込んだ文化要素が残存した。すなわち、この国は世界の博物館としての役割を果たす。</p><p> アメリカ合衆国は広大な面積を有する国であり、地域的多様性に富む。地域性を認識することはアメリカ地誌の重要な課題である。一方、アメリカ合衆国は国家としての統一性を維持してきた。異なる地域的特徴を有する地域の複合体として、国家はどのように維持されてきたのか。すなわち、国家としての全体像とそれを可能にするアメリカ的な仕組みを理解する必要がある。</p><p> アメリカ合衆国は多民族社会であり、これはアメリカ地誌の重要なテーマである。もともとアメリカ大陸には先住民が居住したが、コロンブス以降、ヨーロッパをはじめとする地域から移民が流入した。さらに、労働力としてアフリカから強制移住を強いられた人々もいた。多民族社会は多様な人々から構成されており、これらの多様なエスニック集団は、3つの作用に組み込まれた。すなわち、一つの国家としてのまとまりを実現するアメリカ化のメカニズム、それぞれの地域に根強く存在する地域主義のメカニズム、そして各エスニック集団が共有するエスニック意識を維持するメカニズムである。アメリカ型多民族社会とは、アメリカ化、地域主義、エスニック意識が複雑に絡み合いながら、多様なエスニック集団が共存する社会である。アメリカ合衆国はいつの時代にも分断を経験したが、分裂することのない多民族社会である。</p><p> 以上のような地誌学の視点と方法により、他の社会科学や人文科学におけるアメリカ研究が提供することのない、現実的なアメリカ像を示すことができる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390850475732116352
  • NII論文ID
    130008006684
  • DOI
    10.14866/ajg.2021s.0_34
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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