小型キュービックアンビル圧力セルの開発と静水圧性の評価

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タイトル別名
  • Fabrication of a Miniature Cubic-Anvil Pressure Cell and Evaluation of the Hydrostaticity
  • コガタ キュービックアンビル アツリョク セル ノ カイハツ ト セイスイアツセイ ノ ヒョウカ

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説明

<p>相転移現象は物理学における普遍的な研究テーマの一つであり,身近なところでは水の三態などがあげられる.固体中では,電子がもつ電荷・スピン・軌道の自由度が磁性や超伝導などの様々な相転移に関与するが,その多くは温度変化によって引き起こされる.しかし,絶対零度でも相転移現象は起こり,量子相転移とよばれている.これを制御するパラメータの代表が,今回の記事の主題である圧力である.圧力を加えると固体の格子間距離が変化するが,原子置換(あるいは添加)によっても格子間距離を変えることができる.この意味において原子置換は化学的に圧力を加える役割を果たす.しかし,力学的な圧力印加の優れた点は,原子置換と違って局所的に不均一な乱れを作らないことと,連続的なパラメータ制御が可能なことである.</p><p>現在,強相関電子系で対象となる圧力の範囲は数GPaから十数GPa程である(1 GPaはおよそ1万気圧).圧力誘起の相転移を研究する上で,圧力の一様性・等方性(以下,「静水圧性」とよぶ),広い試料空間,高い到達圧力は重要な要素であるが,広い試料空間と高い到達圧力の両方を満たすことは難しい.広い試料空間を確保できる圧力セルとして,ピストンシリンダー圧力セルが知られている.この圧力セルでは,試料を液状の圧力媒体で充して密封した円筒状のカプセルを,シリンダーの中に挿入してピストンで押す構造になっている.この圧力セルは取り扱いが簡便であり,色々な測定手段に応用可能である.最高到達圧力は,圧力セルの素材として2001年に開発されたNiCrAl合金を使えば,3.5–4 GPaまで到達することができる.</p><p>より高圧で有効な圧力セルはいくつか知られているが,例外なく試料空間が小さくなるため,一部例外を除き殆ど抵抗測定またはX線回折実験しか行われていない.高圧で有効な圧力セルの中で,キュービックアンビル圧力セルは簡便性と静水圧性において優れている.この圧力セルでは,試料と圧力媒体を立方体形状のシール材(ガスケット)の中に密封して,立方体の各面を同じ力で押す構造になっている.荷重は鉛直方向から加えられるが,立方体ガスケットの各面に鉛直方向からの荷重が均等に加わるように工夫されている.ただし,圧力セル本体のサイズが大きくなるため,磁場中での測定には向いていない点が短所となっている.</p><p>今回,我々は,NiCrAl合金を圧力セル本体に使うことで,磁場中測定をも可能とする超小型のキュービックアンビル圧力セルの開発に成功した.これを用いて,試料の原子配列の乱れや対称性の低下に敏感な核四重極共鳴(NQR)法を行い,高い圧力まで静水圧性が維持できていることを明らかにした.具体的には,本体の直径をϕ60まで縮小することができた.これはキュービックアンビル圧力セルの中では現在のところ世界最小サイズである.この圧力セルを用いて酸化銅Cu2Oに含まれる63Cuの核スピンを用いたNQRを行い,その線幅から圧力セル内部の静水圧性が,ピストンシリンダー圧力セルよりも優れていることを明らかにした.</p><p>今後,この圧力セルを微視的測定手段へ適用することにより,高圧下で現われ得る新奇電子状態の解明が期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (5), 295-301, 2021-05-05

    一般社団法人 日本物理学会

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