強磁性近傍のトポロジカル超伝導体――UTe<sub>2</sub>とUCoGeの理論予測

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タイトル別名
  • Topological Superconductivity Near Ferromagnetism―Theoretical Prediction for UTe<sub>2</sub> and UCoGe
  • 強磁性近傍のトポロジカル超伝導体 : UTe₂とUCoGeの理論予測
  • キョウジセイ キンボウ ノ トポロジカル チョウデンドウタイ : UTe ₂ ト UCoGe ノ リロン ヨソク

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抄録

<p>私たちが身近にある自然現象を用いて物理学について語るとき,「磁石」を取り上げることがしばしばある.小学生にもなじみ深い磁石は,相転移,自発的対称性の破れ,量子多体効果,など様々な基礎概念が凝縮されている.その研究は古代ギリシャ時代に始まったとされるが,最近になって超伝導との接点が注目されるようになった.</p><p>物性物理学の世界では磁石を「強磁性体」とよぶ.強磁性の微視的起源は,量子力学的な自由度であるスピンの整列である.一方,超伝導現象の微視的起源は,電子が相互作用により対(クーパー対とよばれる)を形成し,量子多体的に凝縮することにある.電子はスピン1/ 2をもっているので,対を作ると合成スピンは0または1となる.自然界にある超伝導体の多くでは,クーパー対のスピンは0であり,それはスピン一重項超伝導とよばれている.一方,クーパー対がスピン1の自由度を有する場合がスピン三重項超伝導であり,長く興味を持たれてきた.強磁性とスピン三重項超伝導の間にはなにか関係がありそうである.確かに,これまでの研究成果により,スピン三重項超伝導を実現する舞台として強磁性体が有力であることが知られている.</p><p>最近,以前に増して,スピン三重項超伝導に注目が集まっている.その理由は,スピン三重項超伝導体がトポロジカル超伝導の有力な候補となることにある.トポロジカル超伝導とは,準粒子の波動関数が幾何学的に非自明な構造をもつ超伝導体のことを指す.その特異な性質として,欠陥,渦糸中心,表面などにおいてマヨラナ準粒子が現れることが示されている.素粒子物理学において未発見とされるマヨラナ粒子が物質において創発すること,それが量子計算に有用であること,などなど様々な驚きとともに,2000年頃から膨大な研究が行われている.</p><p>トポロジカル超伝導を実現する物質系として提案されたものは数多くあるが,有力視されているものはごく一部である.なかでも,ナノ細線など人工量子系に対する研究が先行している.そこでは,物理パラメータの精密制御が可能であることが生かされている.一方,より自然な形で存在するバルク化合物では,そのような精密制御が期待できないため,安定に実現可能なトポロジカル超伝導が望まれている.スピン三重項超伝導体はその有望な候補である.</p><p>強磁性相あるいはその近傍にある超伝導体は,自然界に希少なスピン三重項超伝導体として着目される.しかし,強磁性秩序は時間反転対称性を自発的に破るため,トポロジカル超伝導の実験・理論研究に不利な点が多い.すなわち,強磁性相の近傍で強磁性にならない超伝導体が望ましい.そのような超伝導相が,高圧下のUCoGeで発見されている.さらに,2018年末に報告された新奇超伝導体UTe2は,常圧で強磁性臨界点近傍にありながら強磁性を示さない点で理想的な舞台を提供している.</p><p>これらの超伝導相が果たしてトポロジカル超伝導であるか否かを判定するために,私たちは第一原理計算と対称性の制約を併用して理論予測を行った.その結果,UTe2は典型的なトポロジカル超伝導体であることが予測された.また,高圧下UCoGeは「メビウス型トポロジカル超伝導」であることが示された.それは,非共型構造というミクロな原子配置がバルクのトポロジーを生み出すユニークな物質相である.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (5), 289-294, 2021-05-05

    一般社団法人 日本物理学会

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